2024年11月25日( 月 )

【常勝企業がなぜ負けた(2)】エイチ・アイ・エス(HIS)~創業者・澤田氏、増資引き受けのため澤田HDを売却(中)

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 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染者が確認されたものの、国内のコロナ感染者数は減少し、大打撃を受けた旅行業界にも需要回復の兆しが見え始めている。政府が再開を検討する観光支援事業「Go Toトラベル」への期待が高まっているが、その矢先に大手旅行会社、エイチ・アイ・エスの子会社で「Go Toトラベル」の不正が発覚した。

コロナ禍で異例の1年に2度の増資

虎ノ門 イメージ    HISは11月2日、第三者割当増資と新株予約権発行で、最大215億円を調達すると発表した。第三者割当増資はアジア系投資ファンドに、新株予約権は同ファンドと澤田秀雄会長兼社長に対して割り当てる。

 HISは昨年10月も第三者割当増資を香港のファンド、新株予約権を同ファンドと澤田会長兼社長が引き受けるかたちで222億円を調達した。

 1年間で2回の増資は異例だ。資本増強策について、混乱があった。

 HISは10月30日、21年10月期の連結決算の業績予想と増資計画を合わせて発表した。

 これまで未定としていた21年10月期の売上高は前期比71%減の1,250億円、最終損益は530億円の赤字(前期は250億円の赤字)になる見通し。赤字は2期連続で、赤字額は倍増する。新型コロナウイルス禍前に売上の8割を占めていた海外旅行の需要が消失し、国内旅行も緊急事態宣言の長期化で収入が大幅に落ち込んだ。非旅行部門の柱であったテーマパーク事業のハウステンボス(株)でも営業赤字が続いた。

 当面の運転資金を確保するため、海外投資ファンドや澤田会長兼社長を引受先とする第三者割当増資で215億円を調達する計画を発表。増資計画をめぐっては、東京証券取引所から不備を指摘されたため、いったん取り下げて、11月2日に再提出した。上場企業ではまずありえない失態だ。

調達資金は売却した本社フロアを買い戻すため積み立て

 HISは調達する215億円を何に使うのか。興味深いのは、9月1日に本社を置く東京・虎ノ門のオフィスビル「神谷町トラストタワー」の4~5階のフロアを324億円で売却したが、調達資金のうち50億円を、5年以内の買い戻しに向けて積み立てる、としていること。

 HISが創業40年目を迎える2020年6月に西新宿から本社を移転したのが、神谷町トラストタワーだ。このビルは国際的ビジネスタワーとして再開発が進められている虎ノ門バストラルホテルの跡地を開発した東京ワールドゲートの中核をなす超高層ビル。

 同ビルを所有する森トラスト(株)からHISは新本社が入居する4、5階分、延べ床面積2320坪を19年3月に325億円で取得。「持ち分の売却」と呼ばれ、土地・建物の所有者がその一部を第三者に売却する取引だ。

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 ところが、三井住友ファイナンス&リース(株)系の子会社に売却した。新型コロナ禍で業績が悪化するなか、手元資金を確保して財務基盤を安定させるべく、たった1年で本社を売却する。新型コロナ禍がもたらした衝撃の大きさを物語っているが、ポスト・コロナに備え、その本社を買い戻すために調達資金のうち50億円を積み立てるというから驚きだ。

モンゴルのハーン銀行を傘下にもつ澤田HDを売却

 HISの創業者、澤田秀雄氏は増資資金を捻出するため、自らの名前を冠した上場企業を売却した。ジャスダック上場の澤田ホールディングス(株)は12月14日開催の臨時株主総会で新体制への移行を決める。

 社名を22年1月1日付でHSホールディングス(株)に変更し、会長・澤田秀雄氏と社長・上原悦人氏は退任。新社長には、(株)日本興業銀行(現・(株)みずほ銀行)出身で、日本旗艦キャピタル(株)パートナーの原田泰成氏が就任した。

 澤田氏は1999年、協立証券(株)を買収して金融証券事業に参入。2003年に、国際入札によってモンゴルのハーン銀行をわずか8億円で買収した。当時、モンゴルはインフラや法整備が未整備な危ない国。迷ったが「政財界のリーダーは若く、この国は伸びる」と腹をくくったと語っている。

 澤田氏は金融のプロをスカウト。ハーン銀行の加藤紀彦頭取は、(株)三菱東京UFJ銀行(現・(株)三菱UFJ銀行)で中近東総支配人まで務めた人物だ。今では、ハーン銀行は首都ウランバートルから遊牧民が暮らす地方まで、モンゴル全土に店舗を広げ、個人・中小企業などのリテール分野ではモンゴル最大の銀行で、澤田HDの連結売上高の8割超を占める。

 その勢いに乗り、12年にロシアのソリッド銀行を持ち分法適用会社に、17年にキルギスのキルギスコスメルツ銀行を子会社化した。

(つづく)

【森村 和男】

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