2024年12月23日( 月 )

H2Oとオーケー、関西スーパー争奪戦の異様~「勘定」より「感情」で決まった!(後)

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 「人は勘定より感情で決める」。ダニエル・カーネマン教授がノーベル経済学賞を受賞し脚光を浴びた行動経済学は、簡単にいえば、人は合理的な判断をするとは限らないという立場に立つ経済学である。関西スーパーマーケットをめぐるエイチ・ツー・オーリテイリングとオーケーの争奪戦は、「勘定」より「感情」で決まった典型例となった。

東京・新宿の仇を大阪・梅田で討つ

梅田 阪急 イメージ (株)高島屋と(株)阪急阪神百貨店を擁するエイチ・ツー・オーリテイリングは2008年に統合計画を打ち出した。だが、額面通り受け取る向きはいなかった。梅田に進出してくる(株)三越伊勢丹を封じ込めるのが狙いと受け取られた。

 高島屋が伊勢丹の本拠地である東京・新宿に出店したとき、伊勢丹本店の圧力で高級ファッションの品ぞろえができなかった。緒戦の敗北が尾を引き、高島屋新宿店は伊勢丹新宿本店、(株)小田急百貨店、(株)京王百貨店に大差をつけられたままだ。そこで、大阪で圧倒的な力をもつ高島屋と阪急が手を携えて取引先に圧力をかけ、三越伊勢丹の出鼻を挫く挙に出たのである。

 高島屋と阪急ににらまれたら、関西では商売ができない。アパレルを中心とした有力ブランドを扱う企業は三越伊勢丹に出店しなかった。三越伊勢丹が目を付けた婦人服アパレルの売れ筋は、他の百貨店に押さえられた。「ファッションの伊勢丹」が看板だが、関西勢の包囲網の前に有力ブランドが集まらなかった。

 大阪の百貨店戦争は前哨戦で勝負がついた。所期の目的を達成したので、高島屋と阪急阪神百貨店の統合計画は2010年に解消した。新宿の仇を梅田で討ったわけだ。

 そもそも出店に無理があった。三越伊勢丹の大阪進出がうまくいくと考えた流通担当アナリストはほとんどいなかった。(株)三越はかつて北浜に大阪店があったが、阪神大震災で被災して閉店を余儀なくされた。三越には大阪再出店は悲願だ。(株)伊勢丹は三越に引きずられたところがある。「お手並み拝見」と冷ややかに見る向きが多かった。

受け入れられたヨドバシのポイントカード

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 その通念を打ち破ったケースがある。(株)ヨドバシカメラだ。2001年11月、大阪・梅田にマルチメディア梅田をオープンした。大阪出店の懸念は、その場での現金値引きが主流になっている大阪の商習慣に対して、ポイントカードというヨドバシが最も得意とする手法が通用するかという点だ。

 ヨドバシの大阪での成功は、ひとえにポイントカードが定着するかどうかにかかっていたが、ポイントカードは受け入れられた。決め手になったのは、そのポイント幅だ。現金値引きではせいぜい数%程度だが、ヨドバシは10%以上のポイント還元が可能。そのメリットに、大阪の消費者が敏感に反応した。

 大阪人は何でも値切って買う。「勘定」高い大阪人の特質を逆手にとって、値引きよりもポイント還元を高くして、大阪人の金銭感覚をとらえたのである。
 三越伊勢丹は大阪進出にあたり、ヨドバシカメラのような大阪攻略の工夫がなかった。三越伊勢丹の敗北は、「東京にとって大阪は鬼門」だと実証する結果で終わった。

「毎日が安売り」商法は、何でも値切る大阪人に通用するか

 関西スーパーの買収を断念したオーケーの二宮涼太郎社長は、各メディアとのインタビューに応じ、関西進出に「チャレンジしたい」と意欲を語っている。ヨドバシカメラのポイント還元のような切り札をもっているのだろうか。

 オーケーはEDLP(Everyday Low Price=毎日が安売り)で成功した食品スーパーだ。EDLPを生み出したのは世界一の小売業として知られる米国のウォルマートである。ウォルマートの傘下となった日本の(同)西友もEDLPを実践している。だが、成功したとはいえない。日本のスーパーが打ち出す特売価格に太刀打ちできなかったからだ。

 ところが、オーケーは競合店が打ち出す特売価格に負けないような通常売価を実現した。これが競合店に勝った要因だ。

 関西には、得意のEDLP(毎日が安売り)の旗印を掲げて進出する。大阪人は何でも値切って買う。定価販売の百貨店でも値切って買う消費者がいるほどだ。

 低価格とはいえ定価販売のオーケー商法。値切ることを身上としている大阪人に受け入れられるだろうか。いささか疑問と言わざるをえない。

(了)

【森村 和男】

(前)

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