どうなる暴力団 工藤会トップに死刑判決出たが……(3)
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元朝日新聞編集委員 緒方 健二 氏
日本で唯一の特定危険指定暴力団「工藤会」(本拠・北九州市)のトップに2021年8月24日、福岡地裁が死刑判決を言い渡しました。ナンバー2とともに元漁協組合長殺害など福岡県内であった市民襲撃4事件に関与したとして殺人などの罪に問われていました。現役の指定暴力団トップが死刑判決を受けるのは初めてとみられ、工藤会以外の暴力団関係者にも衝撃を与えたようです。1992年に暴力団対策法が施行されてから間もなく30年、日本警察の悲願でもある暴力団壊滅は死刑判決を機に実現するのでしょうか。
あの組織も特殊詐欺関与か
トップへの死刑判決で工藤会は「さらに弱体化が進む」と警察幹部は言います。そうでしょうか。確かに警察発表の組員数は20年末時点で約270人と一時期より減っています。08年には約790人でした。頂上作戦着手前年の13年のほぼ半分です。前述の通りこうした数字はあまり意味がありません。存続しているということは資金獲得ができているということなのです。特殊詐欺もその1つです。
工藤会の有力傘下組織が首都圏で特殊詐欺にかかわっているようなのです。捜査当局によると地元の若者らを手足に使って荒稼ぎをし、さらに風俗店などを経営しているといいます。東京都を管轄する警視庁が捜査を担い、一部を逮捕しましたが組織トップには捜査がおよんでいません。警視庁の捜査関係者は「本来は、この組織の情報を多く保有している福岡県警が積極的にやるべき事案」と不満を隠しません。
このトップは最近、工藤会内部の要職に抜擢されました。特殊詐欺を資金源とする別の若手幹部も中枢ポストに就きました。「社会不在」の続く工藤会首脳の意向とみられます。
この地域を縄張りとするのは東京に本拠を置く指定暴力団です。もめことの火種にもなりかねません。
覚せい剤や拳銃も
海外組織と連携し、組織の壁や現役・元の枠を超えてつながり、一般市民も巻き込みながら多種多様の犯罪にかかわっている—。暴力団を軸とする犯罪には銃器や覚せい剤の密輸入、密売も含まれます。特殊詐欺と同様、大きな資金源になっているだけでなく、一般社会にとてつもなく大きな脅威を与え続けています。
銃器の所持は銃刀法で禁じられています。ところが暴力団の間で当たり前のように出回り、使われています。15年8月に山口組が分裂後、山口組と新たにできた神戸山口組との間で続く抗争では、市街地での拳銃発砲が相次ぎました。別の暴力団同士による抗争では過去、入院中の一般市民が組員と間違えられて射殺されたこともあります。工藤会トップに死刑判決が出た4事件のうち2件で拳銃が使われました。
こうした事件に使われる拳銃は大半が海外からの密輸入品です。調達にかかわる元組員は取材に「日本のやくざから『マメ付き道具(実弾付き拳銃)』の注文を受けると、提供元の国の犯罪組織に通じている日本の関係者に連絡を入れて算段を整える。船や航空機での持ち込みが多い。そこで働く人の協力も不可欠」と話します。
拳銃をある場所に「抗争用」として保管しているという関東の組長は「ある件でうちの関係先を警察が家宅捜索したが拳銃は見つからなかった。警察の力は落ちている」と語りました。
確かに警察による拳銃押収は低調です。警察庁によると全国の警察が20年に暴力団側から押収したのは前年より23丁少ない54丁でした。最多は1984年の1,702丁で、つい20年ほど前までは500丁超えが当たり前でした。低調の理由を警察当局は毎回、「隠し方が巧妙」と説明します。大きな権限と執行力を持つ組織が、能力の低下を敵のせいにしてはいけません。一般市民が巻き添えで射殺されたら、警察はそのご遺族に対し同じ説明ができるでしょうか。
(つづく)
<プロフィール>
緒方 健二(おがた けんじ)
元朝日新聞編集委員(警察、事件、反社会勢力担当)。1958年生まれ。毎日新聞社を経て88年朝日新聞社入社。西部本社社会部で福岡県警捜査2課(贈収賄)・4課(暴力団)、20余年いた東京本社社会部で警視庁捜査1課(地下鉄サリンなどオウム真理教事件)・公安、国税、警視庁キャップ(社会部次長)5年、社会部デスク、編集委員、犯罪・組織暴力専門記者など。2021年5月に退社。関連キーワード
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