2024年11月21日( 木 )

肥薩線復旧に向けた現状と課題~肥薩線を高速新線として再生する(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

別の輸送手段への転換も

肥薩線 イメージ 肥薩線は、2020年7月の集中豪雨で被災したため、2022年1月10日時点においても、八代~吉松間が不通になっている。そのなかでも、人吉の1つ鹿児島寄りの真幸(まさき)~吉松間は、実質的には被災しておらず、真幸~人吉間も復旧させようという意思があれば、復旧可能な状態にある。同じく集中豪雨で被災した、第三セクター鉄道・くま川鉄道は、早期の全線復旧を目指している。

 そんな中、JR九州の青柳俊彦社長は、肥薩線の復旧に関する質問に対し、2022年1月5日の熊本日日新聞社に回答を行った。青柳社長は、熊本豪雨で被災し県内区間が不通となっている肥薩線について、早ければ1月中にも復旧費をまとめる意向を明らかにしたという。

 だが鉄道の復旧や再建後の路線維持には、多額の費用が必要になることもあり、「絶対鉄道で、というのはコスト的に難しい」とも指摘している。

 この発言は、今後の肥薩線の被災した区間は、バスなど別の輸送手段への転換も地元に提案していく可能性がある旨を示唆したことになる。事実、日田彦山線の添田~夜明間は、鉄道での復旧をあきらめ、BRT方式のバスへ転換されることが決まった。

 青柳社長は、肥薩線の復旧費に関しては、「年度内に公表する方針に変わりはない」としたうえで、「できるだけ早めたい」とした。

 氾濫により肥薩線に被害が出た球磨川について、国土交通省は自然災害の規模が大きくなる傾向にあることを考慮して、2021年12月に長期的な治水の方向性を定めた「河川整備基本方針」を変更した。

 国土交通省は、流失した第二球磨川橋梁(熊本県球磨村)付近では、水位の上昇が橋梁を流したことを重く見た。計画では、川幅を広げて水位の上昇を抑えるという。ただ熊本豪雨と同規模の洪水では、ダムなどで対処しても、水位が元の橋梁の高さを上回るという計算結果を、国土交通省は示している。

 それに対する青柳社長の回答は、「橋を延長して、高さも上げないといけない。今まさにその設計をやっているところで、これまでに経験したことのないような多額な復旧費になりそうだ」と、新線を建設するぐらいの多額の費用を要する旨を強調した。

 JR九州は、国や地元自治体の財政支援を受けられる鉄道軌道整備法による復旧を目指す方向で検討もしているという。同法による補助率は、国が4分の1、各自治体が4分の1を負担することになるが、残りの半分はJR九州が負担しなければならない。そして同法が適用されるには、復旧後の収支改善に向けた長期運行計画の策定が必要となる。

制度適用へのハードル

 国土交通省の「河川整備基本方針」の変更や青柳社長の発言などから、鉄軌道整備法の「原型復旧」が変更され、今後の水害による被害も想定した内容で復旧しなければならなくなったと、解釈することもできる。

 青柳社長は、「復旧後に鉄道を維持できる仕組みづくりが必要だ。不通区間である八代~吉松間は、毎年9億円近い赤字が出ていた。そのお金をどう算段していくのかが、長期運行計画の基本になる」と述べ、地元自治体と議論を始めていく考えを示した。

 筆者は、今回の青柳社長の「橋を延長して、高さも上げないといけない。今まさにその設計をやっているところで、これまでに経験したことのないような多額な復旧費になりそうだ」というコメントを重視している。

 筆者は、肥薩線を復旧させる際、JR九州が単独で行うは無理なことはわかっており、鉄軌道整備法による災害復旧補助では、JR九州が復旧に要する費用の半分を負担しなければならず、「これでも厳しいな」という認識であった。

 そこでJR九州の肥薩線を復旧させるために、法改正を行い「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助」が適用されることが必要だと考えた。

 「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助」が適用されると、JR九州は災害復旧費用の負担が免除される。この補助制度は、九州内のくま川鉄道の復旧だけでなく、熊本地震で被災した南阿蘇鉄道の復旧にも適用された。

 「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助」という制度が設けられた背景として、地震や水害などの特定大規模災害などにより鉄軌道が被害を受けた場合、地方民鉄や第三セクター鉄道では、経営面で脆弱であるから、自社の資金力のみでは鉄軌道の施設の復旧を行うことが困難であることが挙げられる。

 昔から鉄軌道整備法により、自然災害からの復旧に関しては、国や自治体から補助金が支給されていたが、十分とはいえる状況ではなかった。

 そこで自然災害からの復旧に関して、より補助制度の充実を図ることを目的に、「特定大規模災害等鉄道施設災害復旧事業費補助金」が創設された。

 だが、この制度が適用されるには、さまざまな条件をクリアする必要がある。まずは、災害を受けた鉄道事業者が、過去3年間の経営が赤字であり、かつ当該路線の年間収入以上の損害を出していなければならない。そして適切な経営努力を行っても、災害を受けたことにより、基準事業年度以降概ね5年間を超えても、各年度の鉄軌道事業の損益計算において経常損失もしくは営業損失を生ずることが確実と認められることもあり、再生協議会を設けたうえで、上下分離経営を実施するなどの施策が必要である。また復旧させた後も、当該路線の10年以上の長期的な運行が確保されることが求められている。

(つづく)

(後)

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