苦渋の選択で会社売却~岩堀工務店
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事業承継に長年悩み続ける
福岡市南区にある老舗ゼネコンの岩堀工務店が、金子建設(福岡県久留米市)に会社を売却したことは既報(「岩堀工務店が会社売却~新代表に金子建設の金子泰大氏」)の通り。
岩堀工務店の創業は1955年12月。鹿児島県出身の岩堀茂樹氏が事業を興した。木造工事を主体として官公庁工事を受注してきたが、何よりの持ち味は、地道に手堅い経営を徹底することだった。2代目の博隆社長もそうした基本姿勢を引き継いできたため当然、無借金だった。
今年7月で70歳になる岩堀社長は、今後について悩み続けていたようだ。実際、昨年12月初旬「そろそろ事業承継について検討する時期になったのではないか?」という問いを投げかけたところ、岩堀社長は言葉に詰まっていた。筆者は「何か起きているな」と直観したが、水面下でM&Aの動きがあったことまでは察知できなかった。しかし、「会社が売却された」という情報を聞いても驚きはなかった。
2019年、吉川工務店(福岡市中央区)が西部ガスに買収された際、岩堀社長は「吉川社長も匙を投げたか!最も価値がついたときに選択したのだろう」と呟いていたことを思い出す。岩堀社長と吉川社長は年齢もさほど変わらず、経営に関する悩みを相談する間柄であった。吉川工務店のM&Aが今回の件に影響したのは間違いない。仲介役はメインバンクである福岡銀行。時間をかけて慎重にことを進めてきた。
息子たちも事業承継を承諾せず
今回のM&A劇には水面下に「冷酷な現実」が存在する。
もし岩堀工務店の年商規模が50億円超だったならば展開が違っていた。どういうことかというと、生え抜き幹部に任すことが可能だということだ。ところが実際の同社の年商規模は20億円弱である。この規模であればすべてを社長が被る宿命を背負わなければならない。親父としては「息子たちに経営者の苦しみを味合わせたくない」という親心があったはずである。
岩堀社長から本音が届いた。「コダマさん!ご存知の通り、私には2人の息子と娘がいます。娘への事業承継はまったく考えておらず、2人の息子に打診してみました。長男は大手民間企業勤務、次男は役所勤めです。その息子たちには断られましたから今回の決断をした次第です」という説明を受けた。経緯はそうだろうが、本質は「息子たちに経営者の孤独・膨大な負担を強いるのは酷だ」という結論に至ったのだろう。もう1つ難題がある。岩堀社長は婿養子であるため奥さんの許可が必要となる。しかし、奥さんは「貴方の決断を尊重するわ」と意外にあっさり同意してくれたそうな。
最大の得を得たのは金子建設である。同社は久留米トップのゼネコンである。地元ではいかに頑張っても60億円が限度。もう一段階、規模を拡大するには大市場である福岡に進出するしかなかった。まさに「願ったり叶ったり」で、待望だった福岡に拠点を構えることができた。今回のM&Aの相場はおそらく5億円半ばであろうか。
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