2022年の流通展望(後)
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Amazonが変えた
2017年、アマゾンがアメリカの高質オーガニックスーパーマーケットのホールフーズを買収したのを契機に始まった小売の地殻変動は、既存の大手小売にも本格的な意識改革の必要性を突き付けた。その1つがオンラインで受けた食品を店の駐車場で客に渡すカーブサイドピックアップという新たなサービスだ。それはさらに自宅への配送へと進んでいく。翌年、米スーパーマーケット最大手のクローガは英国のネット専門スーパーのオカドと提携し、20年からCFCと呼ばれる9.000坪以上のセンターの稼働を始めた。宅配に特化した施設だ。
アメリカの動きはすぐに我が国に飛び火する。2030年までにオンライン売上高6,000億円を企図するイオンもそのオカドとの提携に踏み切り、千葉市に8,300坪余りの配送専用のセンターを建設中で2023年の稼働を予定している。
イオンの新たな動きは競合するスーパーの本格的なオンライン販売の呼び水になるはずだ。もちろん、リスクを考えると大きな投資はできないから、既存店舗を利用するか150~300坪程度のダークストアをつくることになるだろう。
小型のダークストアは大型設備よりはるかに安上がりで建設期間も短い。地方スーパーでも十分運営が可能だ。2022年から2023年にかけてはオンラインを加えた既存小売業の新たな競争が始まるに違いない。何もしなければ、圧倒的な地域寡占を構築している小売業を除いて小さくない影響を受けることになる。
視点を変えた統合方式?
昨年はイオンと中四国地盤のフジ、H2Oリテールと関東のDSオーケーの関西スーパーの争奪など、規模の拡大を狙った従来型の経営統合も少なくなかった。
加えて、北海道、中部、九州・山口といった広域の資本提携で連帯を図る動きも進行している。しかし、いまや従来の卸に頼る売り場運営でそのメリットが生まれることは期待薄だ。
一方、AIを利用した情報統合による新たな連携が始まろうとしている。小売業というよりIT企業を自任するトライアルカンパニーが、AIカートを使った店舗運営に着手した。
小売業の従業員の確保はコロナによる外国人労働者の減少も加わって深刻だ。そんな環境では機械が人にとって代わる方策を選択するのがより合理的だ。それは、もはや各スーパー店舗で普通に見られるようになった自動レジに終わらない。トライアルが導入を始めたAIカートは、プリペイドカード専用で、お客が自ら価格をスキャンし、買い上げ点数と価格をリアルタイムで確認できる。今のところ最終チェックに従業員が関与するが、そのうちそれもなくなり、完全自動化を実現するはずだ。最終目標はほとんど従業員がいないスマートストアの実現だろう。
アメリカでアマゾンが実証実験中のリアル店舗「アマゾンフレッシュ」も同じだ。両社とも試行錯誤を繰り返しながらその改善を図っていくのだろう。
このシステムが本格運用となれば効果は「省人」だけではない。売り場データの蓄積で、商品や在庫の改善、店舗、地域別の売れ筋や死筋、適正在庫量がリアルで把握できる。トライアルはこのシステムを他社にも提供する実験を始めた。導入したのはリテールパートナーの1社である山口の丸久だ。いわば企業秘密である店舗の売上情報に関する部分の共有にもつながる極めて珍しいケースだ。それがうまくいけば、北海道から九州を貫く情報と経営連携もあながち絵空事ではない。
従来は居ぬき店舗中心で、売り場も評価もいま1つだったトライアルが、昨年から改装を機会にAIシステムの積極導入で新たな提携分野を生み出しつつある。売り場も生鮮を中心に以前とは様変わりの感がある。
これらがうまくいくと、従来は連携の効果が薄かった飛び地形式の連携が大きな意味をもつことになる。目論見が実現するとメーカーや卸の機能にまで影響をおよぼすことも考えられる。そんな意味でも2022年は従来型小売業にかつてない激震が走る年になるのかもしれない。
(了)
【神戸 彲】
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