2024年11月29日( 金 )

2022年小売業界を展望(後)

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コンビニの「値下げ」問題

 コンビニの商品値下げについて考察する。オーナーの強い要望にもかかわらず、チェーン本部が値下げを忌避するのは、まず価格は絶対的な価値基準だからだ。お客は一度安く買うと、それを継続的に期待する。わかりやすくいえば、定価で売れなくなるということだ。

 たとえばスーパーマーケットには、値下げした商品しか買わないというお客が一定数存在する。とくに閉店前には、値下げを期待する来客が少なくない。そんなお客の基準は概ね30%引きだ。店にすれば値下げ率が30%を超えると利益なき販売になる。その割合が増えればそれこそ致命的だ。

 さらに値下げは売り場の鮮度にも影響する。売り場には2つの鮮度が存在する。まず時間的な鮮度は当然だが、もう1つはお客がもつイメージ鮮度である。値下げ品と正価品が混在する売り場からは鮮度感と清潔感が消える。

 陳列商品量と発注精度の違いで、コンビニの売り場がスーパーマーケットと同じような閉店間際の荒涼感につながるとは限らないが、従来と違った売り場風景になるのは間違いない。

 「値下げは時間の経過による商品価値の低下に合わせたもの」といった売り手の値下げ理論は、お客にとっては極めて説得力がない。だから、いったん値下げが始まると、安くなっていないから買わないお客が増える。そんなお客が増えれば、ますます正価で売れなくなる。

 2021年、値下げと営業時間短縮をめぐってコンビニは重大な岐路に立たされたのである。もちろん、そうした状況に陥りつつあるのはコンビニだけではない。食品スーパーやアパレル専門店も同じ状況にある。

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小売こぼれ話(13)接客サービスの変質(前)

 政府は経済成長とその効果による果実というが、こと流通に関する限り、市場拡大がないなかでの成長は容易でない。残された数少ない戦略は、M&Aによる市場占拠率の拡大にともなう価格支配力の強化。今後は、業態を超えた統合によるM&Aが普通になる時代がやってくる。

変化したライフスタイルは元に戻らない

クリーニング店 イメージ    クリーニングの市場規模が毎年のように縮小を続けている。物語るのは、ファッションが完全にカジュアル化したことだ。かつてのように、有名ブランドを身に着けることで自分のアイデンティティーをポジショニングするライフスタイルは完全に消えた。ブランドアパレルの繰り返されるセール販売や、百貨店の8割が赤字という現状もそれを裏付ける。

 もちろん、低価格の紳士服専門店もこの荒波からは逃れられない。ファッションの主流は完全にホームクリーニングができるカジュアル。それがクリーニング市場縮小の理由だ。

 現在の市場が共有するのは簡便、低価格志向である。安く売るには、安くつくるか、利幅を小さくするしかない。しかし、コロナの影響で世界中の物流と生産が滞り、それも容易にならない状況にある。そのようななかで、小売業が仕方なく値上げする状況が生まれれば、消費力は必ず減衰する。先に実施された消費税アップの影響と同じ構図だ。

 米国ではここ数年、1万店前後の専門店がショッピングセンターから撤退する状況が続いている。一方で、ニューヨーク・タイムズ紙によると、アマゾンの直営と出品者を合わせた合計売上が、世界最大の小売業の売上を超えたという。アマゾンの売上は日本円で年間約67兆円。これらも21年の象徴的なエポックだ。

 今後、アマゾンをはじめとするオンラインの影響を受けると予想されるのが、世界三大アパレルだ。スペインのZARA、スウェーデンのH&M、ユニクロは製造だけでなく、売上も海外に依存している。カントリーリスクというコントロールが容易でない現象が待っている。

 H&Mが新疆ウイグル問題で、中国国内の不買運動の対象になったのはその典型だ。売上の50%超を海外に依存するユニクロも他人事ではない。

 中国や韓国の新興のオンラインアパレルも、間もなく強敵に育つだろう。彼らはオンラインでリアルにはないあふれるほどの情報や商品アイテム、リードタイムの短さで消費者にアピールする。新たにやってくる者は先にやってきた者より強いことは、歴史が証明している。

 昨年、戦後のチェーンストア理論の下、リアル小売業界を理論と実務的な情報提供でけん引してきた商業界が破綻した。その後、『販売革新』などの業界誌の発行は続いているものの、商業界の破綻はチェーンストア理論の崩壊と近似値である。

 シアーズやKマート、ダイエー、西友などのように、従来の発想で改善を目指してうまく行った例は極めて少ない。似たような立ち位置に置かれた多くの小売業が、その溶解をうまく避けることができるかどうかが、22年の注目点だ。

(了)

【神戸 彲】

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