2024年11月25日( 月 )

2022年 岸田内閣で日本は「安い国」から脱却できるのか?(中)

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京都大学大学院教授 藤井 聡 氏

 岸田文雄首相は「所得倍増」を目指すことを軸にして公約をつくり上げ、それで選挙に打って出て戦い、勝利した。「所得倍増」というビジョンはこれまで池田勇人首相(58-60代/1960~64年)が昭和時代に主張して、それを実現させたのが有名だが、それ以降でこの言葉をハッキリと使って総理大臣になったのは岸田さんが初めてである。これは画期的なことだ。

成長なくして賃金上昇なし

 しかし、残念ながら、「分配」の在り方をどれだけ変えたとしても、ただそれだけで私たちの給料を2倍にすることは不可能だ。そもそも配当金の総額はおおよそ、たとえば東証一部の法人企業トータルでも10兆円程度にしかならない。仮にこのすべてを労働者全員に分配しても、労働者の給料は年間15万円程度の増加分にしかならない。従ってこれでは2倍どころか、数%の増加にしかならない。

 なぜそうなるのかというと、国内の法人の大多数を、株式を一般公開していない中小企業が占めているからだ。そうした中小企業の労働者の賃金は、株主への配当金を縮小させたからといって抜本的に上昇するとは考えられないのである。

岸田文雄首相
岸田文雄首相

    ただし、岸田氏は総裁選終了後に新しい政権を立ち上げた折りにこの問題について改めて協議したところ、分配だけでは賃金が抜本的に上昇することは不可能だという上述の点に思い至り、その直後に行われた衆議院選挙においては、「成長」というキーワードを重視するに至っている。つまり「パイの分け方」を改善するだけでなくて、「パイそのものも大きくしていく」という方針へと転換したのである。

 しかし問題は、その成長のために必要な取り組みが、岸田さんが出版した岸田ビジョンのなかにしっかりと書かれていないという点だ。ここが、岸田さんの所得倍増計画のなかで最大の懸念事項なのである。

 では、なにが成長のために必要な取り組みかといえば、「財政政策の拡大」である。そしてその一丁目一番地になされるべきことこそ、「消費税の減税」だ。

 そもそも安倍内閣において、消費税は2度にわたって引き上げられた。これは、財政政策の縮小を意味している。なぜなら、財政政策とは要するに「政府から民間へのおカネの流れを拡大する」というものである一方で、消費税の増税はその逆に民間からおカネを政府が吸い上げることを意味している。従って消費増税を行うことは、「政府から民間へのおカネの流れを縮小」させるものに他ならず、財政政策の縮小を意味しているのである。

 しかも消費税は、数ある税金種別のなかでも最も強力に経済を冷え込ませるインパクトをもつものだ。消費税とは、政府があらゆる経済活動にともなう支払いにおいておカネを吸い上げるので、あらゆる経済活動が停滞していくことは自然の摂理とも言いうる当たり前の話だからだ。

 それほどまでに最悪の増税を安倍政権は2度も行い、消費税率を5%から10%へと、驚くべきことに2倍にまで増やしてしまったわけだ。これは明らかに、本来なすべき経済政策とは真逆のことなのだ。そして実際、その2度の取り組みによってサラリーマンの平均賃金の実質値は、「月給」の視点で大幅に下落し、安倍内閣下で約7%も下落することになったのである。

 つまり安倍内閣における2度の消費増税によって国民はさらに貧困化したのであり、それによって我が国はさらに(諸外国から見れば)「安い国」への凋落の度を深めたのである。

(つづく)


<プロフィール>
藤井 聡
(ふじい さとし)
1968年 奈良県生駒市生まれ。大阪教育大学教育学部附属高校平野校舎を経て、京都大学工学部土木工学科卒業。1993年 京都大学大学院工学研究科修士課程土木工学専攻修了。93年 京都大学工学部助手。98年 京都大学博士(工学)取得。2000年 京都大学大学院工学研究科助教授。02年 東京工業大学大学院理工学研究科助教授。06年 東京工業大学大学院理工学研究科教授。09年 京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授。11年 京都大学レジリエンス研究ユニット長。12年 京都大学理事補。同年 内閣官房参与。18年 『表現者クライテリオン』編集長。

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