【独自】糸島市発注工事、「入札不調」多発の謎(中)
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糸島市発注の「糸島市新庁舎建設工事」を村本建設(株)九州支店が45億8,000万円(税別)で落札した。同工事の総事業費は64億9,000万円。市発足以来、最大規模のプロジェクトであり、市を象徴する新たなランドマークを建設する予定だが、応札者に地場企業の名前はない。目立つのは、落札者の村本建設をはじめとする外様企業の名ばかりだ((前)の表参照)。入札は、市があらかじめ選んだ業者だけで競争入札を行う指名競争入札方式で実施された。市は24社を指名したが、応札したのはわずか4社、1JVのみ。残りの19社は辞退するという異例の事態となった。
疑問視される市発注工事の特性
実は新庁舎建設工事の入札はこれが2回目。1回目の入札については、昨年7月に一般競争入札で公告され参加者を募っていたが、参加希望者が前田・アスミオ特定JVの1社のみだったため、入札不調(以下、不調)となっていた。市はこうした経緯もあり、指名競争入札で2回目の入札を行った。
糸島市では稀に見る大型案件にもかかわらず、最初の入札で参加希望者が1JVのみだったというのは意外だ。実際には、前田・アスミオ特定JVのほかにも、2JVが新庁舎建設工事に意欲を示していたが、市の提示する予定価格がネックとなり、応札を見送った。市が提示していた予定価格は54億4,940万円。新庁舎の概要は、RC造(一部S造)の地上6階建て、延床面積1万1,716.7m2となっている。
似通った建築物に八女市新庁舎がある。新庁舎の概要はRC造(免震構造)5F、延床面積1万1,299.47m2で、予定価格は60億300万円。設計を行ったのは(株)梓設計・九州支社で、糸島市新庁舎も同社が設計を手がけている。
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名護市議が告発「名護版モリカケ事件」(不正入札疑惑)(前)八女新庁舎建設工事には、付属棟(S造平屋建て)の建設などが含まれるため、単純比較はできないが、約5億円に上る予定価格の差は、建設業者の対応にも差を生じさせた。同工事は条件付き一般競争入札で実施され、5JVが応札。辞退したのはわずかに1JVのみ。また、市から出された条件は、JVを組む場合の相手先企業に地場建設業者を選定するというもので、大型案件だからこそ、必ず地元経済に資するように配慮されていた。
糸島市発注の建設工事については、以前から建設業者の間で「安すぎるのではないか」と、市の積算根拠を疑問視する声が出ていた。たとえば、以下のような声がある。
・設計事務所から得た見積り額から市の担当課が歩切りしている。
・市の職員が前例踏襲に囚われており、予定価格に現状(人件費や資材価格の高騰など)が反映されていない。
・市の担当者が屋根工事の発注に際して、価格を抑える目的で仮設足場を使わない方法を採用できないかと打診してきた。職人の命を軽視していると思われても仕方ない話も聞かれた。ほかにも、市とのやり取りを通じた実体験からよもやま話に至るまで、枚挙にいとまがない。
仮設足場の件もそうだが、市は工事には必要不可欠だが現物として残らないものに対して余計な費用と判断している向きがある。こうした状況を受け、「(市の職員は)あまりに不勉強だ。ただあてがわれた予算に当て込むだけなら誰でもできる」と語気を強める建設業者もいる。
価格が安すぎて仕事にならないために、一般競争入札で応札者が集まらず、不調が増える。市のほうから応札を促す指名競争入札で発注をかけるが、新庁舎建設工事でも見られたように辞退者が続出する。これが糸島市の公共工事をめぐる実態だ。このことは数字にも明確に表れており、人口規模が同程度の市と比較すると顕著である(以下の表を参照)。
■不調件数および予定価格
(「2021年~」は21年1月~22年1月25日時点の数字)人口規模が糸島市と同程度のほかの市では、不調の件数が2ケタに上ることは珍しい。これに対して、糸島市発注の建設工事に占める不調の割合は、直近4年の平均値が11.95%と1割を超えている。その分、発注件数も多いという声があるかもしれないが、2021年(21年1月~22年1月12日)の八女市の建設工事入札総件数は424件。これ対し、不調件数はわずかに3件である。
不調の多さは、見積りの取り直し、当初予定されていた工期の変更、職人の再手配など、建設業者の時間と労力を奪う。市職員も再入札にともなう事務作業を余儀なくされるため、結果として、税金の無駄遣いにつながる。大型案件があったとはいえ、糸島市では21年だけで60億円分の工事が不調に終わっている。なぜ不調が多発するのか、市は根本原因に目を向ける必要がある。
建設業者にとっては人手不足と予定価格が問題となる。糸島市の現場に回せるほど人手が余っていないことでもあり、裏を返せば、糸島市の仕事は優先順位がそこまで高くないということでもある。ある地元建設業者は「うちは公共工事でいえば福岡市の仕事がメインになってきている。糸島市の発注工事は仕事にならない。本社機能も福岡市に移した」と話す。
なぜ、このような状況になってしまったのか。根底にあるのは、やはり糸島市の予定価格に対する疑念だ。
(つづく)
【代 源太朗】
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