2024年11月22日( 金 )

次世代のその先へ アート×デジタルでAIを超える未来(前)

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国際政治経済学者
浜田 和幸
(株)HARTi 代表取締役CEO
吉田 勇也

 デジタル化が加速するなか、アートによるイノベーションとビジネスの融合が注目されている。AIが進化する社会における本当の人の幸せとは何か。コミュニケーションの未来はどうなるのか。国際政治経済学者・浜田和幸氏と、デジタルを活用して新たなアート市場を創造する(株)HARTi代表取締役CEO・吉田勇也氏が語り合った。

デジタル社会でのアートの役割

 浜田和幸氏(以下、浜田) 米国では人種による差別が拡大していますが、人種や文化の違いに謙虚に向き合い、柔軟に受け止めることが必要です。人々がお互いに認め合い、目指すにはどうしたらいいのか、ということが大きな課題になっています。

国際政治経済学者・浜田和幸氏(創作漢字展にて)
国際政治経済学者
浜田 和幸 氏
(創作漢字展にて)

    デジタル分野の各国の競争は激烈で、韓国はアジアでデジタル通商協定を結ぼうと積極的に動いています。シンガポールは「デジタルエコノミー連携協定」の締結を加速し、デジタル貿易のコスト低減を試みています。そんななか、米国ではアートとデジタルの融合が注目され、ユニコーン企業の経営者の約2~3割はアートの経験や学びから新しい発想でビジネスを始めています。芸術や音楽学校でビジネス講座が立ち上がっており、アートを生かしてビジネスをいかに成功させるかが欧米のトレンドです。どのような発想からアートのビジネスに取り組んでいるのですか。

 吉田勇也氏(以下、吉田) 私は、中央大学の在学中にイスラエルやアフリカなど世界40カ国をバックパッカーとしてめぐるなかで、ゼロから1を生み出すために何ができるかを模索しました。長期留学先のイギリス・ロンドンはさまざまな人種が住み、多くの言語が使われる都市で、アートが人と人をつなぎ他民族国家をつくる唯一の「社会インフラ」だと実感したことが、新しいアート市場を創造する(株)HARTiを設立したきっかけです。

 最先端デジタル技術のブロックチェーンで大きく進化する分野の1つがアートであり、デジタル上でモノを所有していることを証明する技術、NFT(代替不可能なトークン)を応用したアート取引を手がけています。

 浜田 ロンドンは「街全体がアート」というほどの深い歴史を感じます。海外に出て、まったく違う価値観に直面したのではないでしょうか。

 吉田 広島県の片田舎で生まれたため、幼い時から外に出て人と交流したいと強く感じてきました。私は海外で言葉が分からなくても、気持ちや間合いを読んで人と仲良くなりますが、そういうタイプの人は多くありません。絵画や私自身が6歳から始めた書道は、言葉を超えたコミュニケーションの価値があります。

 浜田 書道や絵画には、言葉の違いを乗り越えるパワーがありますね。HARTiは世界から注目されるアーティストを複数プロデュースしていますが、アートをビジネスとして成立させるにあたり、ハードルをどのように乗り越えましたか。

(株)HARTi代表取締役CEO・吉田勇也氏
(株)HARTi代表取締役CEO
吉田 勇也 氏

    吉田 アート業界に入り込んでいると逆に既得権がハードルになり、今までにないビジネスモデルづくりは難しかったでしょう。アート業界に入り込んでいなかったからこそ、できたことです。当社はエンジェル投資家から出資を受けて創業しましたが、私自身が情熱を感じ目指すことと、投資家の経験からビジネス向きだとする判断は異なることが多く、ビジネスの妥当性を鍛えられました。一方、アートビジネスの成功事例はほとんどないため、過去の経験から判断すると可能性の芽をつむのではないかという懸念もありました。創業3期目からは外部からの出資を増やさずに、収益化に向けてアクセルを踏む姿勢に変わっています。

 浜田 夢の実現に向けてバランスを取り、出資者に理解してもらうのは大切なプロセスですね。新しい世界に挑戦するには、「強い意志」「技術」「仲間」「スポンサー」のいずれが欠けてもうまくいきません。アーティストに還元する仕掛けやキャッシュポイントでは、どのような工夫をしていますか。

 吉田 アート流通の約7割が画廊やギャラリー、百貨店、アートフェアですが、これらの場所に日常的に足を運ぶ人がどれだけいるでしょうか。上記以外の流通を広げたいと考え、大型商業施設やオフィスなどの内装を手がけ、デジタル技術を使った売り場づくりに力を入れている(株)丹青社と21年6月に資本提携し、企業向けにもアートの提案を始めました。

 浜田 人々が想像力を呼び起こす空間づくりは大きな市場になるでしょう。米国では、照明や花を使ったオフィス空間の演出で働く人の生産性が格段に上がるというデータが出されており、オフィスや街全体でアートを取り入れる動きもあります。

 吉田 これまで日本でアートを空間に取り入れてこなかったのは、アートの良さを示すデータがなかったためです。アートによるウェルビーイングというテーマで、日本感性工学会で発表したことで、企業がアートを取り入れるにあたって説得力が出ました。

 HARTiでは、60~70人のアーティストをプロデュースしていますが、アート市場でのブロックチェーンの活用に可能性を感じ、国境のないNFTやトークン(暗号資産)によるアーティストの新たな資金調達も検討しています。

 浜田 中国では、習近平国家主席による「ブロックチェーン強国」宣言やデジタル人民元の活用が、欧米との覇権争いにつながっています。世界共通の新しい文化を育てて信頼度を高めることが必要であり、HARTiの事業は各国が協力できる仕組みを生み出せると考えています。

 吉田 HARTiは中国の大手デベロッパーとも提携交渉を進めており、マンションや商業施設などでアートを提案していきます。

 浜田 中国は不動産バブルで金銭至上主義の負の面が表れており、オフィスや住環境の質に注目し始めた良いタイミングですね。

(つづく)

【石井 ゆかり】


<プロフィール>
浜田 和幸
(はまだ かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著には19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)。2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。2021年7月出版の最新刊は『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

吉田 勇也(よしだ ゆうや)
(株)HARTi代表取締役CEO。1995年生まれ。6歳から15年間、書道家として活動。広島大学附属福山高校を経て中央大学法学部卒業。中央大学法学部在学なかに世界40カ国をバックパッカーとしてめぐり、留学先の英国・ウェストミンスター大学でアートマーケティングを専攻。2019年、東洋経済「すごいベンチャー100」、Plug and Play Japan Brand&Retail部門でAward(最優秀賞)を受賞し、20年、Forbes 30 UNDER 30 Japanに選出された。「感性がめぐる、経済をつくる」を企業理念に、現代アーティストのプロダクション事業やNFT技術を活用した新たなアート市場の創造を行っている。

(後)

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