次世代にらみ新産業振興~よみがえる北九州(後)
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かつて“鉄都”として栄え、また“鉄冷え”と呼ばれる衰退を味わった北九州市は近年、新成長戦略の一環としてスタートアップ(起業)企業の創出・育成に力を入れている。「日本一起業家に優しいまち」を掲げ各種支援事業を展開。今年度、実証実験を実施する市内外の5企業を補助対象に選び、ロボット開発など次世代をにらんだ産業振興を進めている。一方、JR小倉・黒崎駅周辺ビルの建替えによる企業誘致の促進、北九州空港の滑走路延伸による物流振興、洋上風力発電を中核とする、エネルギー関連産業の集積など各分野で持続可能な成長戦略の実践を目指す。
新たな成長戦略 実証実験補助に5社、ほか小倉駅周辺再開発なども
北九州市のスタートアップ支援事業は、実証実験を行う企業に最大250万円を補助するもので、リーフのほか4社を選んでいる。それらの企業は「人と自然が100年先も共生できる世界をつくる」のビジョンを掲げてサンゴ礁など海の生態系を守る事業を行ったり、三次元情報を継続的に取得するためのセンサーを用いたにぎわい測定によりまちづくりのDX(デジタルトランスフォーメーション)を実現し活性化を目指したりなどの事業を展開している。4社とも市外の企業だが、市内に拠点を設置して実証実験を実施する。市の担当者は「北九州は昔からものづくりのまちとして日本の経済を牽引してきた。そうした歴史を背景に、今も、ものづくりが得意なのです。とくにロボットや環境の分野での技術革新、起業への期待は大きい。この補助事業は今年度から始めたが、来年度以降も継続したいと考えています」と話した。
市はこのほか、さまざまな地場産業振興、企業誘致促進のための施策を打ち出している。JR小倉駅周辺のビル建替えや企業誘致を促す「コクラリビテーション」の先駆けとなる事業として、市と地元不動産会社「ミクニ」は地上13階建てのオフィスビル「(仮称)ミクニ魚町ビル」を建設すると発表した。リビテーションはリビルド(建替え)とインビテーション(引き込む)を合わせた市の造語。補助事業の新設・拡充や各種規制(容積率、駐車場設置要件等)の緩和を行う新たな取り組みだ。
「(仮称)ミクニ魚町ビル」は敷地面積1,255m2、延べ床面積9,854m2。100%再生可能エネルギーを使用する。1階はカフェやイベント開催可能な公開スペース、2階にはシェアオフィスやリモート会議室があり、災害時には帰宅困難者の受け入れ場所となる。総事業費は約60億円。敷地にある現在の建物は2022年4月から解体し、同年10月に着工。24年にオープン予定。小倉駅周辺には築40年以上のオフィスビルがほかにもあり、今後順次、更新していくという。
一方、同市若松区響灘地区では、風力発電などのエネルギー関連産業の集積を目指す「グリーンエネルギーポートひびき」事業を進めている。国の第5次エネルギー基本計画では再生可能エネルギーの主力電源化に向けた取り組みとして洋上風力発電がその中核として期待されていることから、港湾に隣接した広い産業用地があり良好な風況の響灘地区の特徴を生かし関連産業の拠点化を進めることとした。
すでに洋上風力発電施設を設置・運営する事業者を公募し、九電みらいエナジー(株)を代表企業とするコンソーシアム「ひびきウインドエナジー」を選定。SPC(特別目的会社)「ひびきウインドエナジー(株)」が設立された。同社の計画概要では、設置する風車は最大44基、総事業費は約1,750億円。22年度着工予定で、順次運転を開始するという。
また、物流振興策の一環として、北九州空港(北九州市小倉南区、福岡県苅田町)の滑走路を2,500mから3,000mに延長する事業が進んでいる。現在、九州・中国地方で唯一の24時間利用可能な空港で、電子機器や自動車部品、半導体などの製造業が集積する北部九州に位置していることから、貨物空港としての発展が期待されるほか、世界の都市への長距離旅客便の就航が可能となる。事業費は滑走路、誘導路などの基本施設のほか航空灯火工事などを含め計約130億円を見込む。今夏、地元住民の意見を聴くパブリック・インボルブメント(PI)を実施し、滑走路を3,000mに伸ばす計画全体を「理解できた」とする割合が8割近くに上ったという。着工に向け、国は2月から環境影響評価(アセスメント)を進めている。
オール北九州の取り組みを
北九州市の人口は1970年代後半をピークに減少の一途をたどっている。高齢化率は政令市中トップだ。ただ、人口減の主な要因としては死亡数から出生数を引いた自然減が挙げられ、転出超過は縮小し、社会動態としては改善傾向にある。また、合計特殊出生率(15~49歳の女性の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に産むとしたときの子どもの人数に相当する)は政令市一高い。子育て支援環境の充実などがその背景にあるとされている。
人口減少1つをもって衰退しているということはできない。それは全国的な現象であり、北九州のみのマイナス材料というわけではない。大切なのは、地域の活性化、住みたいまちづくりのための生産性の向上やイノベーションの創出だ。そして、北九州市は上述のように新たな産業振興策などを通じてそれらを実現しようとしている。ものづくりだけではなく、医療、福祉、子育てなど各分野での継続的な取り組みが必要だ。多方面からの、オール北九州による取り組みが有機的につながれば、その相乗効果は計り知れない。海と山の自然にも恵まれ、都会と田舎が適度に融合する北九州は、新たな魅力を有するコンパクトシティに生まれ変わることができるだろう。
(了)
【山下 誠吾】
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