2024年09月14日( 土 )

【西田亮介】若者が自民党に投票するのは“当たり前”(前)

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東京工業大学准教授
西田 亮介 氏

もはやあてにならない情勢調査と出口調査

東京工業大学准教授 西田 亮介 氏
東京工業大学准教授
西田 亮介 氏

 2021年、史上初めての任期満了後の総選挙が行われることになった。第49回衆議院議員総選挙である。国内政治にとっては久方ぶりの大イベントであった。この間、いつ行われるのかと関係者を大いにやきもきさせ、筆者を含むメディア関係者、報道関係者のなかには幾度も「総選挙が行われるとしたら、常識的に考えていつか」という談話を繰り返して恥を晒すことになった人も少なくない。

 12年に当時の安倍晋三総裁が率いる自民党が政権与党に返り咲き、歴代最長政権を築くことになった。その構図が大きく揺らいだのが今回の総選挙だった。コロナ禍の影響である。社会経済に対して課せられた事実上の諸制約や、長く続いたそれに由来する不満の蓄積、野党共闘の進化とそれにともなう不和、接戦選挙区の増加など、少なくともこの10年のあいだに当然視されるようになった諸条件が変わったことに由来する。

 選挙報道は統計的分析と取材に基づく人間的勘の配合で提供されている。筆者の理解では前提条件の変化で後者があまりアテにできなくなった。記者たちはローテーションで動き、マスメディア、なかでも事業構造的に苦境にある新聞社は一貫してコスト削減を続けてきた。支局網や記者育成もそこに含まれている。

 選挙当日、蓋を明けてみると、情勢報道、出口調査は実際の選挙の結果とかけ離れたものになった。岸田政権は勝敗ラインを過半数に設定したが、自民党が単独で絶対安定多数を獲得した。岸田政権にとっては望外にも、来夏の参院選の結果次第では本格政権もうかがえる内容だったといえる。

 新聞社のなかには事後の反省を通じて的中させることだけが予測の意義ではないと強弁した社もあった。しかし当たらない予測に、「以前から行っているから」という理由だけで大きなコストをかけて、各社横ならびで(といっても最近はメディアごとにいくつかのグループのまとまりができてきた)実施し続ける理由を筆者はいまだに理解できないでいる。

 投票率に目を向けるとどうか。選挙それ自体に関心が向いていない様子がうかがえる。戦後3番目の低投票率(55.93%)のもと、相変わらず年長世代優位で、若年世代の投票率は低い傾向が踏襲され、10代投票率は43%、18歳51.14%、19歳35.04%であった。滑稽なのは、こうした状況をうけた官房長官コメントすら定型的で、これまでの「対策」を今後も踏襲するというものであった。

 「国政選挙において投票率が低いことは残念で、総選挙によって示される国民の意思は今後の政府の方向性を決めるものであることから、できるだけ多くの有権者の皆さまに投票に参画していただくことが重要だと考えている。総務省や選挙管理委員会において、ショッピングセンターや駅構内に期日前投票所を設置するなど、有権者の投票しやすい環境を確保するとともに、若者などへの啓発に努めている。」
(NHK「衆院選 最終投票率は戦後3番目に低い55.93%」21年11月1日配信記事から引用)

(つづく)


<プロフィール>
西田 亮介(にしだ りょうすけ)

東京工業大学准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授などを経て現職。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『無業社会』など著書多数。その他、総務省有識者会議、行政、コメンテーターなどでメディアの実務に広く携わる。

(中)

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