2024年07月17日( 水 )

【郵政】「局長会消えてよし」~断定できる理由(1)

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ライター 黒川 晶

郵政民営化15年目の惨状

〒郵便局 イメージ    今年、我が国の郵政事業は民営化されて15年を迎える。「民間に委ねられることが可能なものはできるだけこれに委ねることが、より自由で活力ある経済社会の実現に資する」(郵政民営化法第1条)との考えに基づき推し進められた、「明治以来の大改革であり、改革の本丸」であった。

 そこではバラ色の未来が示された――郵政事業もその機能に応じて分社化され、市場競争のうちに置かれることで、それぞれ経営の自主性や創造性、効率性を高めていける。それが良質で多様なサービスを安く提供することを可能にし、国民生活はいっそう豊かになろう。法人税などの非課税措置といったかたちで生じていた「見えない国民負担」も最小化される。運用が国債などの安全資産に限定されていた約335兆円にもおよぶ郵便貯金・簡保資金も民間部門へ投入できるようになり、経済活性化につなげることができる、と。

 そうして分割・民営化が強行されて15年、郵政グループはいま、人々にあれはやはり「誇大広告」にすぎなかったのだと慨嘆させるほどの惨状にある。

 祖業である郵便物の取扱数も、かつては圧倒的な規模を誇った郵貯預金残高も、簡保の保有契約数もみるみる減少、日本郵政グループは減収の一途をたどった。社運を賭けて断行した豪物流会社・トール社の大型買収(2015年2月)も巨額の損失を出して失敗に終わり、いまや成長・発展どころか、料金の見直しやコスト削減策で経常利益の沈下を食い止めるだけで精一杯という有り様だ。

 19年には日本郵便が金融2社から支払われる窓口委託手数料の一部を独立行政法人(郵便貯金簡易生命保険管理・郵便局ネットワーク支援機構)を経由させ、その分の消費税を浮かせる仕組みがつくられた。

 最近ではそこに公金を投入する案すらささやかれ始めている。現場では昨年10月に普通扱いの郵便物およびゆうメールの土曜日配達休止と配達日数の繰り下げが始まったほか、今年1月17日からはATMでの硬貨預け入れに1枚から手数料を徴収するように。17年9月末日までに(12年の郵政民営化法等改正法後は「できるだけ早期に」)完了するとされた、日本郵政による金融2社の全株式処分も遅々として進んでいない。いまこそ認めなければならない。民営化はうまくいかなかったのだ。

 困難な道のりだったことはたしかである。少子高齢化と人口減少、なにより情報通信技術(ICT)の急速な進展の影響をもろに受ける業種であるうえ、いくつもの「足枷」――貯金や保険加入の限度額、新規事業・業務への参入制限といった「民業圧迫」にならないための種々の制約、なによりユニバーサルサービスの義務――をはめられて市場の荒波に放り出されたのだから。長期化する超低金利政策も、市場での資産運用を通じた利ざや獲得に依存する金融2社を苦しめてきた。だが、ここへきて明るみに出た現場=郵便局の無法状態は一体いかなるわけか。

 かんぽ生命保険商品とゆうちょ銀行の投資信託の不正販売問題では、社員が高齢の契約者を「食い物」にして営業実績と手当を荒稼ぎしていた実態――そこでは顧客の知識の乏しさや高齢による記憶・判断能力の衰え、なにより「実直な公務員の郵便局員さん」のイメージに突け込むような話法や手口を弄し、高額な保険をいくつも重複して契約させる、解約と契約を何度も繰り返させるなどの行為が横行。不正の疑いのある契約は20万件超に上った――が明らかになった。そして、20年から立て続けに発覚している各地の郵便局長による犯罪の数々。

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 顧客から預かった金や局内の金庫の金を着服する(山口県防府市・奈美郵便局(被害総額約1億1,600万円)、愛媛県愛南町・深浦郵便局(同約2億4,000万円、被疑者の局長は自殺)、北海道・江差愛宕郵便局(同約390万円)、宮崎県・延岡大門郵便局(同100万円))、廃止された証書などを悪用し顧客に詐欺をはたらく(長崎住吉郵便局、被害総額約16億円)、顧客情報を同業他社に売る(熊本県・二江郵便局)等々、管理職の犯罪がこれほど横行するなど一般民間企業では到底考えられない。

 かんぽ保険不正販売問題で日本郵政グループは1年以上の保険営業の自粛を余儀なくされたうえ、20年に3カ月間の業務停止の行政処分が下され新規契約数は激減、株価も一時、上場時の半額まで落ち込んだ。

 だが、これで禊(みそぎ)は済んだというわけにはいかない。一連の不祥事は人々の信頼を毀損し、今後も長く組織にダメージを与えよう。計画どおり民間企業として自立させるにせよ国営に戻すにせよ、いやしくも企業として存続させるためには、コンプラ強化などの対症療法だけでなく、根本的原因を明らかにしメスを入れていかねばなるまい。

 これについて、引責辞任した横山邦男・日本郵便社長は会見で「旧態依然の営業推進体制」という言葉を口にしたが、戦前につくられ民営化したいまも事実上残る慣習――「特定郵便局」制度――のことが頭をよぎった人は少なからずいたのではないか。実際、以下に見ていくように、これはたしかに、現場の人間を不正に誘うような構造的問題をはらんでいる。

(つづく)

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