2024年09月14日( 土 )

【西田亮介】若者が自民党に投票するのは“当たり前”(中)

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東京工業大学准教授
西田 亮介 氏

日本は投票に行かないことが“当たり前”

 編集部から筆者に提示されたテーマは「若者たちはなぜ自民党に投票するのか」というものであった。衆院選の総括報道や、過去10年においても、同種の調査や企画を見かけた。代表的なものがNHKのものだろう(NHK「なぜ若者は自民党に投票するのか?」NHK政治マガジン/21年11月24日配信)。基本的な調査は重要だとして、こうした問いが「疑問」として残り続けている様がうかがえる。

 しかし、ここで問い返してみたいのは、はたしてそれほど不思議なことだろうかということであり、選挙があくまで相対的なゲームであることを考えると野党は自民党を上回る明確な投票理由を提示できているかということである。夢や魅力なのかもしれないし、利益や信頼なのかもしれない。今のところ、筆者はそれらを認識できずにいる。政権や自民党には多くの問題があるはずだが、有権者が認知し、体感する「利点」が―ときにそれが誤解や現実政治や現実の政策の内容と離れたものであったとしても―課題や欠点を上回っているか甘受すべきものと認知され、さらに野党に投票する「利点」を上回っていると認知されるのであれば、不祥事や政権運営がうまくいかないとしても自民党支持傾向は変わらないことになる。自民党の消極支持は繰り返し指摘されてきたことでもある。各社の政党支持率を見てみると、自民党が抜きん出ていた。それは新たに旧立憲民主党と国民民主党が合流して新立憲民主党が生まれたときも、そして現在もそれほど変わらないものである。こうした諸条件を踏まえて問うてみるべきは、野党は自民党を上回るだけの明確な投票理由を若者たちに向けて提示できてきたか、そしてそれらは説得力をもったか/もたなかったということになるのではないか。

東京工業大学准教授 西田 亮介 氏
東京工業大学准教授
西田 亮介 氏

 ところで投票や投票傾向を論じるにあたって本稿もそうだが、ともすれば若者に関心が向くことになる。しかし大前提として、今や日本において、そして「率」ではなく「数」が物をいう選挙の世界において、若者はあくまで脇役だ。現在、20代人口は約1,300万人程度にとどまる。40代は約1,800万人(10歳ごとの区分では現在多数派にあたる)、60代、70代はそれぞれ約1,600万人だ。40代人口は20代人口の1.5倍近いということになる。確かに20代(と19歳)の低投票率は際立つが、なり手不足が深刻化する地方選挙のみならず、14年の総選挙のように国政選挙においてさえ40代の投票率が5割を下回り始めている。

 日本の低投票率、そのなかでも若者のそれが巷で話題になって久しい。北欧の国々などと比較しながら本邦の低投票率に眉をしかめてみせるのである。しかし投票制度は国によって相当程度異なっている。選挙制度を大別するとき、日本は権利的性質が強い国に分類されることが多い。対局にあるのが義務的性質の強い国である。こうした国においては棄権に関して軽微な罰則などが適用されることが多い。公民権の一時的停止や罰金が該当する。日本の選挙制度を振り返ってみればこうした罰則は導入されておらず、人々の自由な選択が重要視されているといえる。こうした前提条件を踏まえると、たとえば義務的性質が強い国の投票率と、権利的性質の強い国の投票率を比べてみたところであまり意味がないことに気付かされる。前者は有権者に投票行為を強く促進しているがゆえに、棄権に対して相当積極的な理由を求めることになるが、後者はそうではない。単純に両者を比較したところで、あまり意味がないし、実際、日本はオーストラリア、スウェーデンやドイツと比べれば投票率が低いが、米国やフランスと比べてそれほどの違いはない(オーストラリアは高投票率と投票義務化の代表的事例でよく知られている)。

 それでも前述の日本の「低投票率」は少なくとも2つの点で懸念が残る。まず大前提として選挙制度は投票に行くことを前提として設計されているという点である。投票率が5割を下回るということは、あくまで投票に行くことがデフォルトであり、棄権も例外的に認められていると考えるのであれば、それらが逆転した例外事態の常態化ということになる。もはや投票にいかないことが当たり前で、投票に行くことが特別な行為になってしまっている世代が現役世代の多くを占めてしまっているのである。もう1つは若年世代の投票率を経年で比較したときに、たとえば20代投票率は過去40年で50%を下回り、半分近くまでに落ち込んでいることである。ともに決して好ましいことではないが、立ち戻っていえば40代でも投票率が5割を下回り始めている。低投票率は若者世代の問題ではなく、全世代の問題として捉え、底上げを図ることが重要だ。

(つづく)


<プロフィール>
西田 亮介(にしだ りょうすけ)

東京工業大学准教授。博士(政策・メディア)。1983年京都生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。同助教、(独)中小機構リサーチャー、立命館大特別招聘准教授などを経て現職。専門は社会学。『メディアと自民党』『マーケティング化する民主主義』『無業社会』など著書多数。その他、総務省有識者会議、行政、コメンテーターなどでメディアの実務に広く携わる。

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