【JR九州】“紆余曲折”DMVの可能性(前)
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運輸評論家 堀内 重人 氏
DMVの概念と開発の経緯
DMVとは、線路と道路の双方で走行が可能となるように、マイクロバスを鉄道車両として改造された車両をいう。
日本では、閑散路線の運行コストを削減するため、JR北海道が日本除雪機械製作所と実用化に向けて共同開発していた。
JR北海道の当時の副社長であった柿沼博彦氏が発案者であり、開発を指揮した。柿沼副社長は2002年、幼稚園の送迎バスを見たときに「わずかな改造でそのまま線路上に乗せられるのでは」と考えたという。
04年に日産シビリアンというマイクロバスを改造し、定員34人の第1次試作車が完成し、日高本線で走行試験が行われた。翌05年には、2車体を背中合わせに連結できる新型の第2次試作車が製造され、同年10月3日に石北本線北見~西女満別~女満別空港間で、実用化を前提とした走行試験が実施された。
だが、同年11月14日の午後11時半ごろ、札沼線での試運転中に石狩月形~豊ヶ岡間の踏切で、積雪に乗り上げて脱線する。そして12時間以上も立ち往生する事故が発生した。これはDMVの車体が、一般の鉄道車両に比べて軽いことが原因とされた。この事故により、DMVは積雪があると運行に支障を来すことがわかり、試験運用は積雪が少ない道東圏や北海道外で行われるようになった。
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【JR九州】「ふたつ星4047」で西九州の海めぐり 新D&Sトレイン(前)その後、07年の通常国会で、地域公共交通活性化再生法が成立した。この法律では、同一の車両を用いて、鉄道事業法と一般乗合旅客自動車運送法による両方の運送サービスを提供する場合を「新地域旅客運送事業」と定義した。DMVだけでなく、水陸両用車についても運賃・料金や各種認可、届出などの整備を行ったことで、DMVに関する法整備が行われた。
その後も08年には南阿蘇鉄道で、09年には天竜浜名湖鉄道で試験運行が行われた。
試験的営業運転の実施
07年度と08年度は4月から11月まで、第2次試作車を使用して釧網本線浜小清水発着で試験的な営業運転が行われた。浜小清水~藻琴間は線路を走行し、藻琴~浜小清水間は国道244号や藻琴湖を周遊する道路を走行した。
運転日は土日・祝日や夏休み期間のみで、1日3便運行したが、「旅行商品」というかたちで販売され、乗車するには事前予約が必要だった。
07年10月21日の午後0時20分頃、浜小清水駅構内で線路へ乗り入れて走り出した直後に脱線事故を起こしたが、乗客乗員に怪我人は出なかった。「走行モード切り替え」の停止位置を示す標識がずれていたのが原因とされ、正しい位置へ標識を立て直した後、10月27日から試験的営業を再開した。
JR北海道、営業運転・実用化を断念
JR北海道では、早ければ15年に営業運転の開始を予定していたが、13年にDMVとは無関係に事故が多発した影響で、同年9月27日に「安全性向上」の優先を決定。営業線区の選定作業を中断し、14年3月を最後に試験運転が凍結された。
同年9月10日、JR北海道は安全対策と北海道新幹線に経営資源を集中させるため、DMVの導入を断念する旨を発表し、15年8月に実用化を断念した。
17年2月に入ると、15年の高波で被災した後、バスで代行を実施していた日高本線の沿線自治体はDMVを導入した運行再開案を提示した。
同年4月には、沿線自治体などが「JR日高線沿線地域の公共交通に関する調査・検討協議会」を設置。DMV導入の可否を含む地域公共交通の方向性について、DMV・BRT・路線バスの3つの代替交通を含め検討した。
その結果、18年7月30日の協議会で、DMVは信号システムの改良、モードチェンジやエンド交換の設置場所の確保などに多額の初期投資が必要であり、JR北海道に代わる事業者確保の問題から導入断念が決まり、同日、協議会は解散した。
阿佐海岸鉄道で実用化
17年2月3日に、徳島県や高知県などの関連自治体でつくる「阿佐東線DMV導入協議会」が徳島市内で開催された。その結果、阿佐海岸鉄道が20年までにDMVを導入する計画が承認された。
計画によると、JR四国牟岐線の阿波海南~海部間と、海部から阿佐海岸鉄道間は線路を走行する。その両駅に道路とレールをつなぐモードインターチェンジを設置して、甲浦から先は道路を走り、室戸岬方面を結ぶとしている。
DMVの運行の起点は、海部よりも1つ徳島寄りの阿波海南となった。DMVが片運転台であり、方向転換が必要となり、高架駅である海部駅で方向転換させるには大規模な改造工事が必要となる。その点、阿波海南は盛り土地区間に設けられた駅であるため、モードチェンジを行うセクションを設けやすい(写真1)。
甲浦では、高架線の終点から地上の道路に下りるスロープを新設し、そこから一般道路を通って室戸岬を目指す。またDMV導入後は、JR四国牟岐線の終点を阿波海南に短縮し、阿波海南~甲浦間はDMVのみの運行とし(写真2)、11年11月から実証実験を開始した。
その後、18年2月には徳島県交通戦略課が、今後10年以内に牟岐線阿波海南~阿佐海岸鉄道甲浦間の約10kmの区間で、営業運転を実現させる旨を発表した。徳島県交通戦略課はDMVを「観光資源」として活用し、甲浦から道路を走行する高知県室戸岬方面への観光ルートの設定も検討するとした。
19年3月9日、阿佐海岸鉄道の宍喰駅で、新たに製造されたDMV車両のお披露目イベントが開催された。
車両は、JR北海道が開発した試験用のDMVと同じようにマイクロバスをベースとしている。バスから鉄道へのモードの切り替えやその逆も同じ方式を採用している(写真3)。
運転席には普通のマイクロバスと同様、ハンドル、アクセル・ブレーキペダル、AT用のセレクトレバーのほか、車体の前部と後部に装備されたガイド用の鉄車輪、上下させる制御装置、ワンマン運転用機器、鉄道用の保安装置などが設置されている。
出入口は車体の左側中央部にあり、開く際に車体下部から乗降用のステップが引き出され(写真4)、車内脇に整理券発行機が設置されている。
当初は、21年7月の2020年東京オリンピック・パラリンピック開催までの導入を目指していたが、長期的に見ると車輪アームが金属疲労を起こしやすく、すぐに危険というわけではないが強度不足と判断された。そこで、DMVの営業運転は21年12月25日からとなった。これが世界初となるDMVの営業運転である。
(つづく)
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