2024年12月22日( 日 )

【JR九州】“紆余曲折”DMVの可能性(後)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

DMV導入を計画・検討した地域と事業者

 JR北海道では新夕張~夕張間での導入が検討されたが、同区間は2016年8月に当時の夕張市長・鈴木直道氏(現・北海道知事)が、JR北海道に条件提示のうえで、新夕張~夕張間の廃止を提案した。JR北海道はこれに全面同意したため、19年4月1日に廃止された。

 青森県の津軽鉄道は、北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅へ乗り入れる構想を示している。

 06年9月に群馬県・栃木県が、わたらせ渓谷鐵道に対し、新たな経営再建策の検討を要請した。松島茂社長は、DMVにより東日本の日光駅方面へ直通運転する計画を提示した。みどり市長・石原条氏は、北海道に出向いて実際に試乗し、同年11月にはDMV導入を本格的に検討するよう指示したが、その後の経営再建計画には盛り込まれなかった。その後、09年4月に群馬県の「鉄道網活性化研究会」の提言書が公表され、わたらせ渓谷鐵道へのDMV導入に言及したが、それ以降DMV計画は具体化していない。

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 静岡県富士市や岳南鉄道は、DMV登場後にいち早く導入の意向を示し、06年11月からJR北海道の協力の下で、富士駅~新富士駅間で走行試験を行った。この動きに刺激され、静岡県の天竜浜名湖鉄道もDMVの走行試験を行った。また岐阜県の明知鉄道は、恵那市が主体となって東濃鉄道バスと共同でDMVの実証運行を実施した。

DMVの長所と短所

 DMVは従来の鉄道車両と比較すると、車体が軽いことから燃料代や保線費が安価になり、鉄道の定時性とバスの機動性の双方の利点を備える。また休止路線や、運行本数の極めて少ない貨物の引き込み線など、既存のインフラを有効活用できるため、新規のインフラへの投資が軽微で済む。

 だが、輸送定員が少ないため、繁忙時に積み残しを出す危険性があるだけでなく、降雪地では脱線したこともあり、JR北海道は実用化を断念せざるを得なかった。

 燃料の軽油には軽油取引税が課税される。線路を走行する場合は課税免除の対象になるが、道路走行時には課税対象となる。このため、課税と非課税の線引きが課題となる。

 さらに、車体が軽すぎて既存の軌道回路と接続できず、既存の鉄道信号システムと連動できない。DMVを導入するには、沿線の信号システムをDMVに対応した新規システムに更新する必要があり、阿佐海岸鉄道では牟岐線との直通運転を廃止した。

 運転手が鉄道用の動力車操縦者免許と、バス用の大型自動車第二種免許の両方を取得し、双方の運転に対応する必要があり、乗務員の養成にコストがかさむという短所も。

 このほかにも、既存のマイクロバスを流用した車体は、鉄道車両としては構造的に脆弱で、鉄道事故時の耐久性や安全性に問題がある。またマイクロバスを改造したため、耐用年数も15年程度と、既存の鉄道車両の40年と比較すれば短く、長期的に見ると必ずしも安価とはいえない。

 DMVは片運転台で片側扉のマイクロバスを改造した車両であるから、既存のホームが使用できず、新たにDMV用のホームを設ける必要もある(写真5)。

 JR東日本が東日本大震災で不通になったローカル線で、各種の課題を抱え、「DMVを運行する線区はDMVしか運行できない」などの規制の多いDMVではなく、廃線跡をバス専用道に転換してBRTを導入したように、DMVを導入する優位性はとくにないように感じる。

写真5
写真5

九州地区で導入される可能性

 南阿蘇鉄道が検討していたことから、国土交通省九州運輸局は06年度から継続して「南阿蘇における新交通システム(DMV)導入による公共交通活性化に関する調査業務」という、公共交通活性化総合プログラムを公表していた。そして07年11月13、14日の深夜に、南阿蘇鉄道で走行試験が行われた。

 この試験は、熊本県や九州運輸局、南阿蘇鉄道などで構成する熊本県DMV導入実証実験協議会が、JR北海道からDMVを借りて実施。高森駅から中松駅までの7.2kmの鉄路を走った後、道路を通って中松駅から高森駅まで戻るルートを、2日間で計10往復し、安全性などを確認した。

 高森町では人口の漸減傾向と高齢化、生活交通の確保と行政負担などの課題を抱え、自家用車中心の観光流動と不便な公共交通アクセスを問題視している。そこで、観光を主体とした地域の魅力向上と活性化に向けて、DMVの導入を目指した。阿佐海岸鉄道と同様に、 DMV を「観光資源」の1つに位置付けていた。

 当時の同協議会ではDMV導入を検討し、08年1~3月には乗客を乗せて走試験を行ったが、その後試験は行われず、現在は導入を断念している。

 九州のほかの線区でDMVを導入するとなれば、日南線の串間~志布志間や指宿枕崎線の山川~枕崎間になるだろう。両線区の末端は輸送量が極端に低くなり、1両編成の気動車では持て余し気味である。また志布志には、大阪の南港を結ぶフェリーが就航している志布志港がある。志布志駅と志布志港は1km程度離れており、志布志港までDMVで乗り入れることができれば利便性が向上する。

 DMVは線路と道路の両方を走行できる車両であり、08年度の「グッドデザイン・サステナブルデザイン賞」を受賞するなど画期的な一面もある。

 だが、信号システムの改良や乗務員の養成コストの増加、車両の耐用年数の短さ、ほかの鉄道と相互乗り入れが難しく、エンド交換やモードチェンジする場所の確保などの制約もある。何より事業者が導入を躊躇するのは、定員の少なさであり、少しまとまった需要があれば積み残しを出す危険性である。このため、阿佐海岸鉄道のように、事前予約制を採用して対応せざるを得なくなる。

 「予約」という行為に抵抗感のある人も多いことから、導入するとなれば、絶対的な輸送量は少ないが、観光需要の見込める線区や地区になり、かつ周辺の道路交通渋滞もひどくないという条件も加わるため、導入に適した地域は限られると思われる。

(了)

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