2024年11月29日( 金 )

「兵どもが夢の跡」大型ショッピングセンターの行く末(前)

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GMS業態の終焉  

 1974年の施行以来、四半世紀にわたって大型小売店の出店を規制してきた大規模店舗立地法、いわゆる大店法が日米貿易不均衡是正という外圧によって廃止されたのは1990年のことで、我が国の小売、流通業界に激震が走った。以後、カルフール、トイザらス、テスコ、ウォルマートなど世界の名だたる小売業が我が国に進出した。しかし、それから30年余りで、彼らの姿は列島から消えた。

 人と同じように、小売もおそらく4つの年期を繰り返す。幼、青、壮、老という流れだ。そのなかで幾多の紆余曲折を経験する。

 先の大戦で新しい時代が産声をあげた。始まりは団塊の世代だ。彼らの成長とともに、経済、社会環境は大きく変化し続けた。やがてそれはバブルという実態なき景気拡大、その崩壊による挫折、その後ITという情報環境の激変のなかで次の期に向かっている。それは大型店のスタイルにもいえることだ。たとえばウォルマートの西友買収には大きな戦略ミスがあった。それは駐車場の拡充もままならない都心型大型店と地方で地域一番を手にしていなかった西友を選んだことだ。西友だけでなく、ダイエーやマイカルといった都心型大型店を持つ有力小売企業は2000年以前にロケーションと店舗の老朽化ですでにその機能を失っていた。

 小売業で最優先すべきは立地である。次いで業態ということになるのだろうが、ウォルマートが買収を開始した2002年ごろには西友は当然この2つの問題を抱えていた。いかに世界一の企業でもロケーションの変更と改装投資なしではその改善は容易ではない。しかし、それを実行するには途方もない時間と資金を要し、ウォルマートはそれに躊躇した。その決断の代わりに彼らが実行したのは販売促進キャッチフレーズと経営人材に頼った改善だった。

 販促と人材で立地と業態の陳腐化はカバーできない。進出後20年後に待っていたのはわずかな投資回収を期待してか15%の株式を残しての日本撤退だった。そんななかで、イオンやイズミといった国内有力小売業はSCにシフトしながら着実に企業規模を拡大していった。しかし、彼らのSCもある問題を内包している。それはキー店舗であるGMS業態の終焉だ。セブン&アイが投資ファンドから祖業であるGMS部門の売却を要求されているようにその将来に明るさは見えない。

先の見えない転換期を迎えたSC

 彼らにとってかわり、しばらく我が世の春を謳歌したのがSPAといわれるユニクロやZARAといった製造小売業だ。しかし、これらのポストGMS小売業にも転換期が訪れようとしている。小売市場のオンライン化だ。

 それがもたらす極めて大きな変化は「足と手の転換」だ。

 消費者は長い間、モノを買うには、自らの足でそれが手に入るところまで移動し、それを手に家に帰ることが必要だった。しかし、今や指先のクリック1つで世界中の数億以上の商品に簡単にアクセスでき、配送者の手で自宅に届く世界がやってきた。比較、選択も同じだ。欲しいときに、欲しいモノを、欲しい価格で、という新たなTPOSである。指先革命の利便性は今後さらに深化、拡大する。しかも、その進行は急だ。

 1950年代、米国では自動車専用道路のインターチェンジ周辺を中心に複数の大規模住宅群が建設され、それを当て込んだSCが建設されるようになる。やがてそれは本来の商業施設というだけでなく、不動産投資の対象として注目され、建設数が激増。70年代に入ると隣接する複数SC同士の過酷な競争が生まれた。モータリゼーションと新興住宅地の開発により、雨後の筍のように次々に誕生し続けたアメリカのSCだが、このところ、それらの不振が深刻化している。少なくない施設の不振が報告されているアメリカのSC数はいまや全米各地で大小47,000カ所余り。SC1カ所あたりの人口は7,000人を下回るという激戦だ。一方、我が国のSC数は3,180カ所余りでSC1カ所あたりの人口は39,000人余りなので、アメリカの競争がいかに激しいかがわかる。

 そんなアメリカの不振の原因は過当な競争だけではない。既存業態離れ、ネット通販の伸長が重なり、まさに三重苦の状況だ。

 その結果、デパートやGMSなどキーテナント、家電、スポーツ用品大型店、衣料品専門店の閉鎖がこの4~5年来、年間10,000店近いという末期的な状態だ。そんなSC空き室率は今やほぼ二桁近くで、バブル崩壊時を上回るほどだ。

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 テナントが歯抜け状態のモールに楽しさはない。そんなSCから自然と客足は遠のく。複数の大手銀行や調査会社によれば、2025年にはその空き室率は20%に近づくという。その数値が意味するのは空き室だらけのさびれたSCが各地に溢れるということだ。しかし、おそらくそこまで行く前に全体を閉鎖するSCが続出するはずだ。

 その前段階ともいえる状況がすでに現れている。大型SCのなかにはキーテナントが閉鎖した空きスペースにオンラインストアの配送倉庫を誘致する例が出始めている。しかし、オンライン倉庫がSC全体の集客に寄与するという望みは薄い。空きスペースが埋まったといっても該当SCの不動産価値は大きく低下する。再生の手が尽きたSCはそのまま廃墟になるしかない。いわゆるゴーストモールだ。

(つづく)

【神戸 彲】

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