2024年11月29日( 金 )

「兵どもが夢の跡」大型ショッピングセンターの行く末(後)

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我が国のSC

大型ショッピングセンター 駐車場 イメージ    日本では1950年代に入るとショッピングセンターという言葉が使われ始めたがそれは都心商店街に隣接する多層階の100坪前後の店に過ぎなかった。もちろん駐車場はない。

 その後、それが大型化し、立体駐車場を持つようになったものの、広大な駐車場を持つ郊外立地のアメリカ型のそれは68年にオープンした570台の駐車場をもつダイエー香里店といわれる。

 だが、近代SCの始まりは地元商店街の強い反対のなか、81年末にオープンした岩手県の人口8,000人という江釣子村(現・北上市)のパルだろう。ジャスコ(現・イオン)をキーテナントとした50の専門店が東北道のインターチェンジに近接してオープンした。当時はキツネやタヌキを相手に商売するのかと揶揄されたとイオン創業者の岡田卓也はかつてそう語ったものだ。

 都心部の競争で、ダイエーの後塵を拝したジャスコには郊外にかけるしか手段がなかったともいう。そのうちに、都市型SCを建設した大手小売業が経営不振になり、同業同士の施設売買が発生し始めた。しかし、それは都市部のSCを中心としたもので、同業が同業を買うというかたちだった。

 イオンがダイエーやニチイ、寿屋を手に入れる構図だ。しかし、今後は郊外型のSCにもそんな流れが生まれるかもしれない。もちろん、不動産リートやファンドを含めた不振SCの争奪戦だ。もちろん、争奪戦といっても不振SC側に経済的メリットはない。ぎりぎりの価格で買いたたかれるだけだ。理由は再建に多大のコストがかかるからだ。

かつて全国から見学者が訪れたコストコ久山倉庫店

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 たとえば、コストコの入るトリアスなどはその範疇に入るのかもしれない。全面積の95%以上が市街化調整区域という久山町にトリアスができたのは1999年4月。7.6万坪の敷地に149店、年間売り上げ目標400億円でトリアス久山としてスタートした。開発や建設、運営の面でのさまざまな紆余曲折を得て難産の末、開店した大型商業施設だった。

 目玉はコストコの日本1号店。開店後1年以上、トリアス久山には全国から小売業者を中心に見学者が殺到した。オープン直前、施設を主導した1人だった故・平山敞氏の案内で施設を見学したが、その顔にいささか冷めた笑みを浮かべて施設案内をしてくれたものだ。その理由は理解できる。それまでの流通店舗はなるべく足下商圏の厚いところ、いわゆる足下商圏が潤沢な場所に立地するのが常識だった。しかし、トリアス久山の周りはまさに“野山”の感があった。住宅は見えない。そんな風景と出来上がった広大な商業施設を前に不安の気持ちが頭をもたげたことは容易に想像がつく。幸いにもマスコミ各社の報道の影響もあり、オープンには大勢の客が訪れた。

 しかし、肝心のコストコもその品ぞろえとパッケージ単位の大きさですぐには消費者の心をつかむことができず、施設の回遊性の問題もあって施設全体の年間売上高400億の目標には遠くおよばなかった。その後、高速道路の無料化を境に、コストコの客数は大幅に増えたものの、他の店舗のそれは変わらなかった。コストコ以外の店舗にそれほどの魅力がないからだ。このままで運営を続ける限り、この状況は変わらないのだろう。

 現在、トリアスは複数の運営者の手を経て、モール内店舗を除いてイーストに22店、ウエストに25店で営業している。そのなかで極めて強い集客力をもつのはコストコだけである。コストコの商品種類はわずか4,000程度だが、そのほぼすべてがコストコでしか手に入らない。同じものを売っている店が近隣50kmにはないのである。だから広大な地域が商圏ということになる。そのなかには人口100万人を超える福岡市を含む近隣市町村が含まれる。立地としては申し分ない。しかし、それをメリットにできるのは特別な店だけだ。特別な店とは、そこに行かなければ、よそでは手に入らない商品を売っている店ということである。コストコとはまさにそんな店だ。その商品は直接店に行くか通販でしか手にできない。それ以外の大部分の店はコストコに行かなくても体験できる。

 トリアスが誕生して20年が過ぎた。その間、福岡都市圏のなかにはイオンモール福岡や香椎浜など多くの競合SCができた。それらの施設は見た目も新しく洗練度も高い。そう考えると、今のトリアスの商業施設価値は高くない。運営会社としてもテナント誘致や施設改善の投資など、その運営は容易ではないはずだ。

 利益は顧客の満足料ともいわれる。店はその一部を施設改善や新たな魅力の付加で顧客に返さなければならない。それができないと施設全体が陳腐化する。そんな商売の原則を考えると、トリアスの明日は暗い。とくに消費旺盛な若者やその家族にとって陳腐化したSCはわざわざ行くところではない。コストコに魅力があってもコストコついでにほかの店で買い物を…とはならないのである。

 店舗年齢が高く、売り上げ不振に陥った店舗の再生は極めて困難だ。SCも同じでその再生はなかなか手ごわい。つまり物販施設としての価値創造はできないということになる。かのコストコでさえ、今や店に行かなくてもオンラインで買える時代だ。

 残された道は物販以外の施設に生まれ変わるしか手がないことになる。若者、ファミリー相手の魅力ある施設。モノ売りからコト売り。そんなとんでもない再生策を求められるのが物販不振の大型SCなのかもしれない。

(了)

【神戸 彲】

(前)

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