2024年11月23日( 土 )

物流業界のモーダルシフトの担い手―東京九州フェリー(前)

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運輸評論家 堀内 重人 氏

直行フェリー誕生の背景

東京九州フェリー
東京九州フェリー

    (株)東京九州フェリーは、北九州市門司区に本社を置く、新日本海フェリーや阪九フェリーを運航するSHKグループの海運企業で、2021年7月1日から横須賀~新門司間のフェリー事業の運営を開始した。

 横須賀~新門司間は1,000km以上離れているが、東京九州フェリーが直行便を就航した理由の1つとして、環境問題に加え、トラック運転手の確保難や物流業界のモーダルシフト推進で、フェリーやRORO船、コンテナ船などの内航海運の輸送量が増加していることが挙げられる。

 物流業界では700kmまでは「トラックが優位」であり、700~1,000kmが「鉄道が優位」といわれる。1,000kmを超えると航空機になるのかといえば、輸送コストが高いため、価格に転嫁できる高付加価値品であるだけでなく、かさ張らない小型軽量の貨物などに限られるため、「航空機が優位」ともいえない状況にある。

 関東圏~九州圏を直行で結ぶフェリーを就航させるとなれば、紀伊半島沖や四国沖などを通る必要があるため、陸路と比較すれば距離的に長くなるが、貨物需要が多いことなどから大型化するだけでなく、採算性も考えると関東圏~九州圏間を24時間以内で結ぶ必要もある。そうなると30ノット近い速度で就航が可能な高速フェリーとなる。

SHKライングループは18年に横須賀~新門司間の航路の計画を発表した。そしてグループ各社の出資により、19年に東京九州フェリーが設立された。

フェリーターミナル建設反対運動

 フェリーは物流の担い手であり、昨今では物流業界のモーダルシフトの担い手として、期待が高まっている。フェリーは、シャーシーや海上コンテナを輸送して稼ぐ収益構造であるが、法律上は海上運送法が適用されるため、「旅客船」となる。そうなると待合室やトイレ、食堂などのサービス設備を備えた専用ターミナルが必要となる。

 東京九州フェリーは、横須賀新港のフェリーターミナルを活用している。横須賀新港は昭和40年代の後半に開港しているが、フェリーターミナルは東京九州フェリーの就航に合わせて建設された。このターミナルビルは東京九州フェリーが建設している。

 だが、フェリーターミナル建設に際し、港湾で荷役を行う地元の16社の港湾運送業者で組織する横須賀港運協会が反対を唱えた。

 反対理由として、自動車運搬船の荷役に影響が出ていることや、当初のフェリー誘致先が久里浜港だったことが挙げられる。久里浜港から横須賀新港へフェリーターミナルの建設が変更されたのは、東京九州フェリーの船長が影響している。東京九州フェリーの船長は222.5mもあり、これは大型船の規格。これだけの船長があると、久里浜港では対応できないからである。

 横須賀港運協会は「フェリー就航が、自動車輸出拠点としての横須賀新港の埠頭の性質を大きく変える」などを理由に、0.3haのコンテナバースなどの港湾施設の用地を、フェリーターミナルビルへ用途変更する行為を違法と主張し、反対運動を展開した。

 フェリーターミナルを建設するには、既存のコンテナバースから転用させなければならず、そうなるとRORO船やコンテナ船の荷役に支障を来たす。

 20年10月に港運協会に所属する相模運輸倉庫が、横浜地方裁判所に行政事件訴訟法に基づく抗告を行い、21年2月には相模運輸倉庫が用途変更取り消しなどを求める住民監査請求を市監査事務局に提出した。

 そして21年4月、横須賀市の上地克明市長に対し、フェリーターミナル整備費1億4,200万円の支出停止と前払金4,490万円の返還請求訴訟を起こし、翌5月には全国港湾労働組合連合会が横須賀港運協会の反対運動に賛同し、ストライキを含む争議権を確立した。問題解決が見られない場合は、全国規模の港湾ストライキに踏み切る姿勢を見せた。

 だが、その後、横須賀市と横須賀港運協会の双方が事態の解決に向けた努力を続け、5月末に、6月3日に予定されていた抗議運動を延期した。

 6月に入ると、横須賀市と横須賀港運協会が、国土交通省の関係者の立ち合いの下、埠頭を使いやすくするための利活用に関する協議会の設置に合意し、6月8日に初会合を開催した。

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 21年7月に東京九州フェリーの就航を迎えたが、この時点でも横須賀市と横須賀港運協会の合意は形成されていなかった。そのため、現在も同協議会は継続されている。

物流に貢献

 東京九州フェリーは船長が222.5mもあることから、トラックやシャーシーの積載可能台数の増加に貢献している。物流業界のモーダルシフトを推進させるとなれば、トラックやシャーシーの積載台数を増加させる必要もある。昨今、建造されるフェリーは、トラックやシャーシーなどの積載台数を増やすため、大型化される傾向にある。東京九州フェリーは瀬戸内海を航行しないため、船長が200mを超える大型船であっても運航上の支障が生じたりしない。

 それよりも、横須賀~新門司間を片道21時間で結ぶには、船速28.3ノットの高速運航を実施する必要があり、222.5mの船長は運航時の安定性にも貢献する。

 横須賀や新門司を午後11時50分過ぎに出港するダイヤは、北関東や九州各地からの集荷に有利である。九州地区で仕掛品や半製品を集荷して関東にある工場で加工する場合や、九州地区の生鮮食品を北関東へ出荷する場合だけでなく、北関東で生産された野菜類を九州へ輸送するにも便利だといえる。生鮮食品は鮮度を維持した状態で輸送できるように、リーファーコンテナ(冷蔵コンテナ)用の電源がフェリーには備わっている。

 東京九州フェリーでは生鮮食品と自動車関連の部品などの輸送が多いと、同社の関係者から聞いている。横須賀や新門司への到着が早かった場合は、両港のフェリーターミナル付近にあるシャーシープールなどを活用して、時間調整をしながら、工場の始業時間やセリの開始時間に間に合うように対応しているという。

 今後トラックによる陸送を減らし、その分をフェリーへモーダルシフトさせるには、シャーシープールの充実が不可欠になる。

(つづく)

(後)

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