2024年10月01日( 火 )

プーチンの「妄想」に苦しむ民衆、ロシアの戦争犯罪(前)

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『ウエッブ・アフガン』編集長
野口 壽一 氏

 ロシア軍はウクライナ南部マリウポリを廃墟にした残虐な砲撃だけでなく、キーウ近郊から撤退した後に、ロシア軍によるものとみられる残虐行為の証拠を次々と残していきました。ウクライナ政府は、キーウと周辺で410人の遺体を確認したとしており、戦争犯罪の疑いで捜査を開始しました。ロシア政府は証拠を示すことなしに、残虐行為はウクライナがでっち上げたものだと主張しています(※1)。

(※1)
ウクライナ・ブチャでの残虐行為、欧米が強い憤りを表明 ロシア外交官追放へ」(BBCニュース)
ウクライナの解放された地域で恐ろしい光景=大統領報道官」(BBCニュース)

戦争は依然として国家間紛争処理の最終手段

プーチン大統領
プーチン大統領

    悲しいことですが、国家間の紛争を外交によって解決できない場合、戦争が解決の手段となります。

 戦争を国家間の紛争処理の手段として認知するため、国際間で戦争のルールを設けていたり、戦争にともなう紛争を処理する機関などが国連とは別に、国連の付属機関または関連機関として設置されていたりします。

 そもそも国連は、悲惨な被害をもたらした第二次世界大戦を反省し、戦争が起こらない世界を担保するためにロシアなどの戦勝国がつくった機関です。常任理事国として拒否権をもつロシアが国連加盟国に対して、戦争という武力を行使して領土を侵犯したうえに、核兵器の使用さえちらつかせてウクライナおよび世界を脅迫しているのです。ロシアの今回の行為は、侵攻を合理化する理由がいくらあろうとも、自らがつくった自らの存立基盤を否定する行為であり、国連の無力化を促進する行為と言わなければなりません。

 今回のロシアによるウクライナ侵攻の最大の問題点は、国連総会で侵攻を非難する決議が多数決で採択されたとしても、その決議を実行する手段がないことです。明白な悪事であると大多数の国が判断しても、国連として悪事を抑止し処罰する手立てがありません。

 人類社会には必要悪の存在があります。国家もその1つですが、戦争は必要悪ではなく、絶対悪として人類の英知のすべてをかけて消滅させようと、あらゆる機会に世界中の人々が努力してきました。核兵器や非人道的大量殺傷兵器などもそうです。戦争や国家間の武力行使に関しては、国際法や集団的合意などで縛りを設けて、無制限な拡大をなくそうと努力がなされてきました。

 しかし、現実には、第二次世界大戦後も世界中で戦争が絶えたことはありませんでした。今回侵略を受けたウクライナでさえ、他国に侵攻して武力行使を行ったことがあります。しかもその対象はアフガニスタンです。

ウクライナも他国に侵攻したことがある

 ウクライナはアフガニスタンで武力行使、つまり戦争をしたことが過去2回あります。
 1回目は、ソ連邦の一員として1979年から89年の10年間。この戦争でウクライナは死者3,000人、負傷者8,000人を出しています。いまだに72人の行方不明または捕らえられた兵士がいるそうです(Wikipediaによれば、ソ連軍全体の戦病死者は1万4,500人、負傷者は5万3,753人、行方不明者は312人)。

 ウクライナでは、2004年から毎年2月15日に外国での戦闘行動参加者の追悼行事を行っています。この日付は、ソビエト軍が1989年に撤退を完了させた日です。ウクライナはアフガニスタン以外にもチリ、スペイン、エジプト、ベトナム、エチオピア、キューバ、その他の世界の「ホットスポット」での国際作戦に参加しています。

 2回目は、アメリカのアフガン占領期間中の20年間です。

 ウクライナはNATOに加盟していませんでしたが、NATO加盟志向国としてアフガン占領行動に参加しました。2018年7月4日付のTOLOニュース(アフガニスタンの独立報道機関)によれば、当時、米・NATOからの支援ミッションには39カ国から1万5,000人の外国軍が参加しており、ウクライナはコソボへの40人以外にアフガニスタンへも11人を派遣していました。これを近々29人に増員する予定であると報じています。同時に、この増員は「単なる政治的アピール」ではなく、ウクライナ東部での戦闘任務を遂行するための作戦能力を強化するものでもある、とのこと。つまり、プーチン政権がウクライナ侵攻の口実としているドンバス地域でのウクライナ側の実践訓練を米・NATOが行っている、ということにほかなりません。

 以上の経緯からいえることは、ウクライナが単に主権と領土を侵害された被害者であるだけでなく、ことアフガニスタンに限ってみても、「侵略」する側の一員でもあった、しかも直近まで、という事実です。ゼレンスキー氏も大統領という国家の代表である限り、ウクライナが国家として行ってきた行動に関しては過去にまで遡って責任をとるべき国家的責務を負っており、それを実践しているということです。

 アメリカは軍事関係者だけでなくCIAをも通じて、14年のロシアによるクリミア併合以来、8年間、ウクライナ国内でも陰に陽に兵器の支援や兵員のトレーニングなど、ウクライナ軍の強化を助けてきました。コソボやアフガニスタンだけでなく、ウクライナ国内で直接指導し、ロシアが2月24日に侵攻する直前にアメリカ人指導員らは退避しています。8年かけて周到な準備を行い、プーチンを罠にかけたのです(アメリカは民間人、大使館員をも退避させてロシア侵攻に備えました)。

 ここに見られるのは、個々人の人命尊重や尊厳など一顧だにしない冷酷な国家同士のゲームであって、我々庶民には理解したくない論理と出来事ですが、悲しいことにそれが現実であり、庶民にとって最も厳しい死活的な出来事なのです。

(つづく)

(後)

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