傲慢経営者列伝(8)ファストリ柳井会長「日本人は滅びる」発言で大炎上(後)
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このままでは日本人は滅びる──。カジュアル衣料「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長の“予言”が、ネット上で大炎上している。物議を醸している発言を手がかりに、日本一の大富豪が「事業継承」と「相続」をたしかなものにするために、何に取り組んでいるかを検証してみよう。(敬称略)
リスボン大地震でポルトガルは長期低落
ポルトガルは東日本大地震クラスの大地震に襲われた。1755年、日本では江戸中期の第9代将軍・徳川家重の時代だ。リスボン大地震までは、大航海時代で世界の海を制した国はポルトガルだった。ヴァスコ・ダ・ガマの世界一周は全盛時代の偉業だ。
しかし、大地震でリスボン市は壊滅。奇跡的に崩壊せずに残った建築物が世界遺産ジェロニモス修道院という。大地震のダメージは、ポルトガル経済の基礎体力を奪い、産業は空洞化し、現在に至る「失われた250年」の長期衰退の道を歩むことになる。今や、産業といっても、水産、コルクぐらいしかない。まさに発展途上国である。
東日本大震災後の政治的対応に長期ビジョンを欠いていることから、柳井は、リスボン大地震後のポルトガルのように、日本は衰退の道を歩むと警鐘を鳴らしているのである。
柳井は“変人”である。高校時代についたあだ名は「山川」。人が山といえば、川と答えたからだ。他人と同じことをしない。70歳になっても、異端児ぶりはいささかも衰えていない。柳井の現状認識に首肯できる向きは多かろう。
少数精鋭の評価制度、20代前半の店長で年収500万円
少数精鋭を標榜する柳井は、実力主義の評価制度を取り入れている。他のアバレル企業に見られない特徴だ。ファストリの平均年収は2023年8月期で約1,148万円、平均年齢は38.8歳。これは日本企業の平均年収よりもかなり高い水準だ。
ユニクロの店長は大きく「店長」「スター店長」「スーパースター店長」にランクが分かれており、賞与を加えた年収としては「店長」が大半の20代は500万円ほどで、「スーパースター店長」なると1,000万円を超えてくる。給与水準が低い小売業界で20代前半の店長で年収500万円というのは、かなり恵まれているといえる。
店長の重要な業務は売上管理。店舗ごとに前年の実績に基づき1日当たりの売上目標が設定されており、決められた人件費のなかで店員を割り振りして回していかなければならない。ユニクロはこの数値管理が厳しいことで有名で、朝礼や終礼などを通じて日々の売上目標額が末端のアルバイトにまで周知されているという。
柳井は、ユニクロでの成功例を踏まえて、「少数精鋭で仕事をするということを覚えないと日本人は滅びるんじゃないか」と警告を発しているのである。
「泳げない者は、沈めばいい」
それでは、日本一の大富豪・柳井は何を目指しているのか。
柳井が目指すのは世界一のアパレル企業だ。ライバルであるZARAを手がける世界最大手インディテックス(スペイン)の24年1月期の売上高は約5.9兆円。2位のH&Mブランドのへネス・アンド・マウリッツ(スウェーデン)の23年11月期の売上高は約3.3兆円だ。
柳井は世界の2強に追いつき、追い越すために売上高5兆円を目標に掲げる。約2兆7,000億円(23年8月期)の売上を5兆円に引き上げるには並々ならぬ力仕事が必要だ。
力仕事を託せる後継者を見つけることが、長年の課題だった。だが、草創期のメンバー、大企業からスカウトしてきた後継候補たちは、柳井のお眼鏡に叶わず、ユニクロを去っていった。
「泳げない者は、沈めばいい」
柳井が好んで使っていた言葉だ。ユニクロは世界一のアパレル企業を目指して疾走している。その大波に立ち向かえないものは、去ればいいと非情の言葉を浴びせた。
鴨長明の『方丈記』の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」を引用して、柳井は「まさに同じ、安定的な会社など幻想にすぎない」と言い切る。
柳井はユニクロが世界一のアパレル企業になった暁に、2人の息子にオーナーの座を譲る。その準備に怠りはない。だが、最大の難題は相続税の問題だ。どう乗り切ろうとしているのか。
(つづく)
【森村和男】
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