2024年10月01日( 火 )

プーチンの「妄想」に苦しむ民衆、ロシアの戦争犯罪(後)

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『ウエッブ・アフガン』編集長
野口 壽一 氏

ソ連はアメリカの罠にかけられていた

 2月24日からの1カ月を見れば、プーチン・ロシア大統領が、欧米の代理人としてのウクライナ・ゼレンスキー政権と戦わされていることが明瞭になってきました。しかも、戦局を決定づけているのが、アフガニスタンでソ連を苦しめたスティンガーなどの携帯型ミサイルだというのも、繰り返される歴史の皮肉を見るような気がします。

 ではソ連は、1979年12月にアフガニスタンに侵攻する前に、アメリカからどのような“罠”を仕掛けられたのでしょうか。

 その経緯をフランスの雑誌社ヴォルテールネットワークが、罠を仕掛けたズビグニュー・ブレジンスキー(当時、国家安全保障問題担当大統領補佐官)とのインタビューで紹介しています。このメディアはフランスの知識人Thierry Meyssanの主導で作成された、国際関係の分析に特化した非同盟の報道ネットワークです。

 この記事によれば、ブレジンスキーは「公式には、ムジャヒディンへのCIAの援助は80年、つまり、ソビエト軍がアフガニスタンに侵攻した後に始まったことになっている。これは秘密にされてきたが現実はまったく異なる。秘密支援を行う指令にカーター大統領が最初に署名したのは、79年7月3日。私はこの援助はソビエトによる軍事介入につながるだろう、と大統領にメモを渡した」と述べています。

 さらに、「私たちはロシア人に介入を強要したのではない。彼らが介入する可能性を意図的に高めただけだ」と。「ウソをついたのですね。後悔していませんか」と問うフランス人記者に、ブレジンスキーは次のように答えています。「なぜ後悔する必要があるのですか?この秘密工作はすばらしいアイデアだった。ロシア人をアフガニスタンの罠に誘い込んだのだ。我々はソ連を“ベトナム戦争”に引き込んだのだ。実際、モスクワはほぼ10年間、最終的にはソビエト帝国の崩壊につながる紛争と戦わなければならなかったのだ」。

ミサイル攻撃を受けたキーウの様子
ミサイル攻撃を受けたキーウの様子

 プーチンも罠にかかった。2021年からウクライナ国境沿いに大軍を配置して圧力をかけるロシア軍の動向を国際マスメディアに仔細に報道させ、「ロシアは〇〇日に侵攻する。アメリカとNATOは直接介入しない」とバイデン大統領は公言し続けたのでした。クリミア併合後の8年間の裏工作の総仕上げでもあったはずです。まさにソ連が軍事介入する蓋然性を高め、そうしてもいいよ、という合図を送り続けたのです。

 前年、アメリカはアフガニスタン撤退での不手際がありましたが、以前からの計画を粛々と続けています。主敵は中国です。アメリカを経済的に脅かす存在になってきた世界No.2を叩かなければなりません。そのために、トランプ時代に弱まっていた同盟関係の再建強化を図りました。とくにアジア・太平洋地域での英米日豪印、アセアンとの同盟強化策は、ロシアをウクライナにくぎ付けにし、中国との間にくさびを打ち込む戦略とつながっています。

 これまでにアフリカや中東やアフガニスタン、ミャンマーなどのアジアの民衆は悲惨な状態に追い込まれています。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)によれば、紛争や迫害により故郷を追われた人は21年に世界で8,000万人を超えています。しかし、ウクライナではわずか1カ月で国外・国内避難民は1,000万人になるとしています。

 1日も早く無益な戦争を終わらせ、誰もが不安と恐怖を感じないで生きられる地球を手にしたいものです。ともかく今は、ウクライナで頑張る人々を支援し、世界中の1人ひとりが戦争反対の声を上げ、NATOや各国政府やさまざまな組織が核戦争や生物化学兵器の使用に反対し、ロシア国内の心ある人々と連帯して、プーチンの侵略の蛮行をやめさせるよう圧力をかける以外に方法はありません。


<プロフィール>
野口 壽一 氏野口 壽一
(のぐち・じゅいち)
1948年生まれ、鹿児島県出身。80年夏アフガニスタンを単独取材し、翌年<写真記録>『新生アフガニスタンへの旅』を出版。2018年元アフガニスタン共和国副大統領の回想録『わが政府 かく崩壊せり』を翻訳出版。フェニックス・ラボラトリー(同)代表。

<ウェブサイト&メルマガ>
野口氏が代表を務めるフェニックス・ラボラトリー(同)は、ウェブサイト『ウエッブ・アフガン』を運営してアフガニスタンの現状を伝えるほか、現地からの声、エッセイなども掲載している。以下の『ウエッブ・アフガン』およびメルマガのアドレスやQRコードからアクセスし、アフガニスタンの「今」をぜひ知ってもらいたい。

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