2024年12月26日( 木 )

ウクライナ報道に隠れ、ミャンマー国軍の弾圧が苛烈に(2)

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「福岡・ミャンマー友だちの会」代表
松本 敏秀 氏

 日本政府はロシアのウクライナ侵攻に対し、人道的支援などにアジアではいち早く乗り出した。一方で昨年の軍事クーデター以降内戦状態にあるミャンマーへの姿勢は対照的で、避難民支援は消極的だ。ミャンマーは元来親日的であったが、民主化を望む多数派の国民のあいだで日本政府への不信が広まってきている。ミャンマーで予防歯科などのボランティア活動に長年従事してきた松本敏秀氏(「福岡・ミャンマー友だちの会」代表)は、早く対処しなければ、対日イメージが悪化し、今後の両国の交流・協力関係に悪影響をおよぼしかねないと懸念する。

 ──ミャンマーの現状はどうなっているのでしょうか。

 松本 ロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナ情勢に世界中の関心が集まり、報道がこの問題中心になっていますが、おそらくこの状況を一番喜んでいるのはミャンマー国軍でしょう。ウクライナ問題に隠れて、世界のメディアの目がミャンマーに向かなくなってきているからです。ミャンマー国軍は、自分たちの行為が外部世界に伝わることをもっとも恐れており、市民がSNSなどで発信するのを警戒し、海外からの非難をものともせず、それらはフェイクニュースだと主張してきました。

 ミャンマー国軍はウクライナをめぐり早い段階でロシア支持を表明しています(民主政権時代の現ミャンマー国連大使は、非難決議に賛成)。ロシアはミャンマー国軍を一貫して支援しており、両者はつながっています。ミャンマー国軍が使用している武器の多くはロシア製です。もっとも、ビルマ時代の社会主義政権期から旧ソ連と親密な関係にあり、ロシアのみならずウクライナもミャンマーに武器を提供しています。

 あいにく、日本でもこうした状況はほとんど報道されていませんが、報道が減っているだけで、問題が存在しなくなったわけではありません。私自身もヤンゴンの友人・知人と連絡をとり、話を聞いていますが、むしろ国軍の市民への弾圧や集落への空爆は激しさを増しており、反対する市民を不当に逮捕し続けています。こうした被害は国境沿いの山岳地帯など少数民族が多く住む地域でとくに深刻のようです。空爆は狙いを正確に定めて行われるというよりは、その地域にいるだろうという憶測に基づいて行われており、ウクライナを空爆しているロシアと同じです。あるいはほかの住民への見せしめなのでしょう。抵抗するなら親戚や居住する村も含めて焼き払うというものです。

 国境に接した北のカチン州、ザガイン管区、西のチン州、東のシャン州、カヤー州、カレン州など、少数民族が多く住むこれらの山岳地帯において被害がもっとも深刻です。ミャンマー国内で、わかっているだけで少なくとも約100万人の避難民が発生していますが、国際機関や海外のNGOのスタッフなどカウントできる人が国内に入れないため、犠牲者を含め正確な数字はわかりません。

 避難したくても逃げる場所がないのです。国境を接するタイ、中国、インド、バングラデシュなどは、積極的な避難民の受け入れは行っていません。タイ政府などは国際社会を意識してか、避難民を受け入れるとは言っていますが、ミャンマー国軍と良好な関係にあるタイ国軍は、タイ国境に入ろうとする避難民をミャンマー側に追い返しているのが現状です。ウクライナ避難民を欧米や日本などがどんどん受け入れているのとは対照的です。

 空爆を受けていない地域では、NGOなどの現地スタッフが残って活動をしている地域もありますが、数としては少ないです。家や食料を失い、本当に困っている人たちのいる地域にはまず入れません。私たちはそうした地域の人につながるルートを使い、支援を行ってきましたが、物資を運ぶ人たちが襲われたり、物資を略奪されたりする状況となっているため、現在は行えていません。

 ──政情がより不安定になっているということですが、経済についてはどうでしょうか。

 松本 地方ではすでに崩壊しているところもあります。主に都市部での現状についていえば、コロナ禍に欧米からの経済制裁や国内の混乱なども加わり、ミャンマー経済はさらに疲弊してきています。コロナ禍で失業率が高くなっていたところに、クーデター以降、国軍の国民に対する監視や締め付けが継続され、外出が以前ほど自由ではなくなったこともあり、失業者が増え続けているようです。

 収入が減る一方で物価高も深刻です。世界的原油高に加え、野菜や穀物などの生活必需品は倍以上に値上がり、それがほかの価格にも転嫁され、国民の生活は非常に苦しいと聞いています。加えて、ミャンマー通貨のチャット安が続き、国内保有外貨も減ってきたため軍事政権は、個人や企業保有の外貨のチャットへの強制両替を国民に命令し、さらに混乱させています。

(つづく)

【文・構成:茅野 雅弘】


<プロフィール>
松本敏秀
(まつもと・としひで)
1983年九州大学歯学部卒、87年同大学院歯学研究科博士課程修了後、同大小児歯科に勤務。96年松本こども歯科クリニックに開院、2011年同クリニックを閉院し、ミャンマーなど東南アジアでのボランティア活動を開始。12年「福岡・ミャンマー友だちの会」を設立、代表に就任。この間、九大歯学部非常勤講師、臨床教授、卒後研修医指導医などを兼任。2019年西日本国際財団第20回アジア貢献賞受賞。

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