2024年10月01日( 火 )

ウクライナ情勢の経済への影響(前)九州―ロシア貿易

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ

 2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は、ウクライナ国民の生活を破壊し、多くの人命を奪っているのみならず、世界経済にとって大きな不安要素・不確定要素となっている。両国の経済活動やサプライチェーンの混乱、日本を含む西側諸国の対ロシア経済制裁などにより、九州を含む日本の企業活動にも影響がおよぶことを懸念する声が聞かれる。

サプライチェーンへの影響

ウクライナ イメージ    ロシア軍が2月24日にウクライナへの侵攻を開始して以降、日本を含む西側諸国はロシアの行為を「重大な国際法違反」であるとして経済制裁を発動、ロシア側は対抗措置を取った。ウクライナ侵攻とそれに続く一連の動向により、ロシア、ウクライナの経済活動やサプライチェーンに支障が出るなど、日本を含む世界経済は大きな影響を受けている。資材や商品の品不足や仕入れ価格の上昇が続けば、販売価格への転嫁を迫られる。戦争が長期化すれば、業績の下押し圧力が強まっていく。

 西側諸国による経済制裁の枠組みには、米国主導の下で各国が連携し、欧州各国、日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国が参加(4月8日時点で37カ国)、加えてシンガポールや台湾なども制裁を発動している。制裁は多岐に渡り、(1)金融制裁、(2)ロシアへの輸出規制、(3)ロシアからの輸入規制、(4)最恵国待遇の取り消し・撤回などだ。ロシア側はそれを受け、48の国・地域を「非友好国」として対抗措置をとっており、輸出禁止などが含まれる。

 日本ですでに見られる、または今後予想される影響を大別すると、以下の3点がある。1点目は、ロシアおよびウクライナ産商品の価格上昇。代表的なところでは、両国は世界的な穀倉地帯であり、小麦粉などを多く輸出しており、日本の製粉各社も今後の値上げを発表している。

 2点目は、欧州産などの商品の価格上昇。西側の制裁にロシアの航空会社の領空飛行禁止が含まれており、ロシアも対抗措置として2月下旬から、世界数十カ国の航空会社を対象にロシア領空の飛行を禁止したことで、各航空会社はロシア迂回ルートを使わざるを得ず、燃料費などのコストが増えたためだ。航空便が減少するなか、貨物スペースはウクライナ向けの支援物資や医療品などが優先されるため、取扱量は減少している。実際に制裁の影響がいち早く表れたのは、水産物ではロシア産よりもノルウェー産のサーモンなどといわれている。

 3点目は、企業のロシア事業の停止・縮小。ロシアに進出している日本国内の上場企業のうち、約4割の企業がロシア事業の停止・制限または撤退を明らかにしているという。業種別では、製造業の比率が高い。主な理由に、現地での生産、商品の配送などサプライチェーンの混乱が挙げられている。

 ロシアで事業を行って収益を得ることについて、一部の企業は自主的に抑制したり停止したりした。継続している企業に対し、とくに大規模な企業や、現地で小売など目につきやすい事業を行っている企業に対して批判が寄せられた。ユニクロを運営するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が3月7日に「衣服は生活の必需品」であると述べ、ロシアでの販売を継続しようとしたものの、批判を浴び、10日に事業を停止すると表明せざるを得なくなった。それに先立つ4日、英国の石油大手シェルがロシア産原油の購入を続けると決めたものの、批判を浴び、8日にロシア事業からの完全撤退を表明している。

 近年、環境・社会・ガバナンスの視点を取り入れたESG投資や、企業ブランドを保護するためのレピュテーションリスクの重要性が高まっており、そうした傾向が表れたものといえる。国内上場企業で、ロシア事業の停止の理由として直接的にESG投資を挙げる企業は少ないものの、欧米などのグローバルに事業展開する企業ほどそうしたリスクは高いことがうかがえる。

ロシアとの経済貿易関係

九州経済圏─ロシア間 輸出入額

 門司税関によると、九州経済圏(九州7県・山口県・沖縄県)のロシアとの輸出入は2021年で、輸出が664億1,900万円で九州経済圏の輸出全体の0.7%を占め、輸入は2,386億7,000万円で輸入全体の3.2%を占める(門司税関「九州経済圏の貿易」21年分)。19~21年で輸入額が輸出額の3.2倍~3.6倍に達しており、大幅な輸入超過となっている。参考までに、21年の九州のEUからの輸入額は2,169億9,700万円(構成比2.9%)であり、ロシアからの輸入額が比較的多いことが確認できる。

 門司税関の資料には、輸出入それぞれの品目が掲載されていないため、参考として、「財務省貿易統計」に掲載された日本全国とロシアとの輸出入の状況を確認する。なお、21年の日ロ間の輸出は8,623億6,200万円、輸入は1兆5,488億6,800万円であり、こちらも九州経済圏同様に輸入超過の状態であるが、輸入額は輸出額の2倍以内に収まっている。

 品目別で見ると、21年の輸出は輸送用機器が構成比で53.7%を占め、自動車が41.5%、自動車部品が11.6%となっている。金額の大きい輸入について詳しく見ると、鉱物性燃料が最多で61.5%を占め、主な内訳は液化天然ガス(24.0%)、石炭(18.3%)、原油・粗油(16.6%)。2番目は原料別製品(22.5%)で、非鉄金属が18.9%。3番目は食料品(9.2%)で魚介類が8.9%と大半を占める。4番目が原材料(5.1%)で、木材が3.4%を占める。

(つづく)

【茅野 雅弘】

(後)

関連記事