2024年11月23日( 土 )

「ななつ星」グレードアップ(中)JR九州上場に貢献

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

運輸評論家 堀内 重人 氏

 JR九州は4月8日、「ななつ星in九州」の車両や運行コースのリニューアルを10月に行うと発表した。今回は、JR九州の企業イメージ向上にも大きく貢献した「ななつ星」について振り返ってみる。

JR九州の株式上場

ななつ星in九州    JR九州の株式上場も、「ななつ星in九州」のデビューと関係しており、株式上場に向けた企業イメージ向上のために「ななつ星in九州」を登場させたという側面がある。

 JR九州は、16年10月25日、東証一部に新規上場。公開価格2,600円を500円上回る3,100円の初値を付けてのスタートだった。上場後の最安値は同年11月の2,851円、最高値は17年6月の3,910円だった。

 上場から半年ほどは、海外機関投資家の思惑も絡んで値動きが大きかったが、直近1年の株価はJR東日本やJR西日本、大手私鉄と同様に推移しており、内需関連株の一員として定着しつつある。

 国鉄分割民営化以前や実施当初は、JRの三島会社は「自立経営が不可能」と考えられており、鉄道事業の損失を補てんする「三島基金」が用意されていた。JR九州は、民営化初年度となる1987年度の決算(単体)では、営業収益1,298億円、営業費用1,587億円で、288億円の営業損失を計上。営業費用のうち、減価償却費は241億円であり、償却前は赤字であったため、極めて厳しい経営状態だった。それを283億円の経営安定基金の運用益で損失を補てんし、ようやく15億円の経常利益を出している。

 経営安定基金は、3,877億円がJR九州発足時に用意されていた。当時はバブル期で、利回りが7%以上あり、これを運用することで運用益を出していた。経営安定基金は、実態は政府からの運営補助金で、当面の赤字を補てんしつつ、経営改善を進めることを前提にしており、JR九州は早急に「鉄道事業の赤字削減」と「非鉄道事業の収益拡大」に取り組む必要があった。

 鉄道事業は、不採算なローカル線が多いこともあり、現在も赤字だが、収益性の高いマンション販売や駅ビルなどの不動産事業と、コンビニや薬局経営などの小売事業などの関連事業が好調であり、それら関連事業の収入が鉄道部門の赤字を補っていた。ゆえに、経営安定基金に頼らなくても、会社全体で「黒字」なので、上場可能となったのだ。

▼おすすめ記事
【企業研究】九州旅客鉄道(JR九州)~上場以来初の中間赤字

 14年3月期のJR九州の連結決算の売上高は、前期比3.5%増の3,548億円で、4期連続増収で過去最高を更新した。営業利益は同19.7%増の90億円、当期利益は同91.2%増の115億円と、いずれも2期ぶりの増益となった。

 「経営安定基金」という実質的な国からの補助金をもったままでは、民間企業とは言いづらくなる。バブル崩壊後は、市場金利が下がっていたが、JR九州は14年3月期の基金の運用益は120億円で、前期より22億円も増えるなど、利益を底上げしてきた。そこで基金の規模を小さくするため、国土交通省と協議を行っている。

 株式上場時、JR九州の社長は青柳俊彦氏だった。当時のJR九州は、運輸サービス事業と駅ビル・不動産事業の利益が、それぞれ全体の4割を占めており、今後しばらくの間、この構成で成長を目指す考えだった。

 成長戦略に関しては、「鉄道づくり」「九州でのまちづくり」「新事業や九州外エリアへの挑戦」の3つを重点戦略として、18年度には、売上高4,000億円、利払い前・税引き前・償却前利益780億円の達成を経営目標とした。株主還元では、鉄道やホテルで利用できる株主優待のほか、「今後3年間は、連結配当性向30%程度を目安に安定的な配当を目指す」とした。ある意味、「ななつ星in九州」は、株主に対する利益還元の要素もあり、仮に人気がなくなれば、株主を招待するといった活用方法もある。

 現在、JR各社のなかで「基金」というかたちで政府から支援を受けているのは、JR北海道、JR四国、JR貨物である。JR貨物は、発足当初から実質、自社で線路を保有せず、旅客会社の線路を借りて、全国一律の経営を行っている。

 だが民営化後に開業した新幹線は、赤字必至の並行在来線をJRから切り離しても良くなり、並行在来線を運営する第三セクター鉄道が誕生した。そうなると従来の回避可能費用をベースとした線路使用料では、並行在来線を運行する企業の経営が成り立たない。

 そこでインフラの維持管理費なども含んだ平均費用と回避可能費用との差額を、JR貨物に対して「貨物調整金」として、支給している。

 政府内では、JR北海道、JR四国、JR貨物に対する根本的な救済策が検討されている。JR北海道はJR東日本への統合が、JR貨物はJR東海への統合が、JR四国とJR九州は、JR西日本に統合する案が、有力視されている。

 だが、JR西日本は、不採算なローカル線を数多く抱えるうえ、JR東海のような「東海道新幹線」、JR東日本のような「首都圏」というドル箱路線やエリアをもたない。株式上場はしているが、経営状況は良いとはいえず、JR四国とJR九州を支えるほどの経営体力はない。

 また政府は、JR貨物をJR東海に吸収合併させたい考えだが、旅客と貨物はまったく性質が異なるため、営業の方法も根本的に異なる。国鉄時代も、「旅客局」「貨物局」というかたちで、別の局になっていた。仮にJR東海へ吸収合併されたとしても、貨物は別の事業部となるだろう。

(つづく)

(前)
(後)

関連キーワード

関連記事