2024年11月25日( 月 )

「ななつ星」グレードアップ(後)一般車両も重要

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運輸評論家 堀内 重人 氏

 JR九州は4月8日、「ななつ星in九州」の車両や運行コースのリニューアルを10月に行うと発表した。今回は、JR九州の企業イメージ向上にも大きく貢献した「ななつ星」について振り返ってみる。

「ななつ星in九州」のさらなるグレードアップ

 JR九州は、4月8日、「ななつ星in九州」の車両や運行コースをリニューアルすると発表した。列車内にサロンや茶室を設けるほか、部屋数を14室から10室に減らし、定員を30名から20名に減らすことで、より上質なおもてなしを追求する。2022年4月末時点でも、乗客3名に対してクルーが1名付いており、きめ細かいサービスを提供(写真2)。2号車は、乗客同士が交流できるサロンに変更。九州各地の銘茶をそろえた茶室を用意し、茶師がお茶をたてて乗客に提供するという。

写真2
写真2

    代金は、2人1室利用の1泊2日のコースでは、最安の“スイート”が1人あたり65万円と、これまでの40万円から1.5倍値上がりする。これが最上級の“デラックススイートA”であれば90万円になる。3泊4日のコースとなれば、“スイート”が1人あたり115万円、“デラックススイートA”が170万円になるという。

 JR九州は、定員がこれまでの3分の2になるので、その分、代金を値上げして対応したように思える。だが、これまで1人あたり40万円だった1泊2日の“スイート”利用のリピーターは、代金が1.5倍になると従来のサービスでは満足しないのではないだろうか。JR九州は、約3カ月かけて車両の改装を行うが、クルーなどの接客技術は、3カ月では急に向上しないだろうし、1人あたり65万円払う乗客を満足させるノウハウもないだろう。

 「ななつ星in九州」のサービスは、後発の「トランスイート四季島」や「トワイライトエクスプレス瑞風」と比較すると劣っているように思える。とくに食堂車のサービスに関しては、その差が顕著だ。「トランスイート四季島」「トワイライトエクスプレス瑞風」では、コックが厨房で調理を行い、料理を提供している。とくに「トランスイート四季島」は、フレンチのメインが牛肉であれば、シェフが客室まで出てきて、焼き加減などを乗客に聞くサービスを行っている。

 対する「ななつ星in九州」では、地上で調理された料理を、車内で温めて、皿に盛り付けて提供している。22年10月以降は、従来のラウンジ車だった1号車が食堂車となるため、厨房などの設備を有していない。これではリピーターが離れていくだろうし、新規顧客を開拓したくても、JR九州には、割高になった代金を支払う利用者を満足させるだけのノウハウがないと思われるため、難しいだろう。

写真3
写真3

    昨今のJR九州を見ていると、「ななつ星in九州」と、一般車両との整備状況の格差が、大きくなったと感じる。以前から、吉都(きっと)線や日南線などのローカル線で使用される車両は、車体のペンキがはげ落ち、車体から錆が浮いた状態だった。車内に入れば、窓ガラスは黒く汚れ、座席は埃だらけで、まるで蜘蛛の巣がはったかのような状態で運行されていた。最近では、熊本近郊区間で使用する通勤用電車であっても、(写真3)のように車体から錆が浮いた状態で運行されるなど、一般車両の維持管理状態も悪くなっている。

 一方、「ななつ星in九州」の車体は鏡のようにピカピカで、筆者はこれほど光沢のある車両を見たことがない(写真4)。それをさらにグレードアップするというのだ。

写真4
写真4

 株式上場で、不採算部門への設備投資などを実施しづらくなるなど、ローカル線のサービスは悪くなってしまった。筆者は、「ななつ星in九州」を否定するつもりはまったくないが、平素から通勤・通学などで利用される一般車両が、維持管理が悪い状態で運行されているのは、非常に問題だと考えている。

 「ななつ星in九州」は、定員が少なく、高額な料金を徴収したとしても、非常に利益率が低く、さらなるグレードアップの必要性はない。そのような資金があるのなら、一般車両の維持管理を重視し、通勤・通学などの利用者に対するサービスを向上させる必要がある。

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 株式上場に向けイメージアップも兼ねて導入した「ななつ星in九州」だが、一般車両の維持管理状態が悪ければイメージダウンにつながってしまう。それゆえ今回の「ななつ星in九州」のさらなるグレードアップは、本末転倒のような気がしてならない。一般車両の維持管理を入念に行わないと、「ななつ星in九州」を運行したとしても、地域住民が非協力的になることも予想され、良質なサービスを提供できないだろう。「ななつ星in九州」のような豪華クルーズトレインが成功するには、地域住民の協力が必要不可欠であり、その礎となる地域輸送の充実があってこそ、それが成り立つといえる。

(了)

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