「生娘シャブ漬け」発言の吉野家常務の輝かしい履歴(後)
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「後悔先に立たず」。やってしまったことを後で悔いても、もう取り返しがつかないという意味である。牛丼チェーン吉野家の元常務取締役・伊東正明氏の不適切発言が“大炎上”。調子に乗りすぎて「敏腕マーケター」としての輝かしい人生を棒に振ってしまった伊東氏の発言の「火消し」に吉野家は追われることとなった。
「牛丼マーケティングの寵児」と呼ばれる
19年3月からのメニュー施策はコア深堀りの一環だ。「超特盛」(特盛よりも大きい最大サイズの牛丼)と「小盛り」(並盛りの4分の3サイズの牛丼)を同時に発売した。女性向けの新サイズ「小盛り」を販売し、ニュース性をもたせるために「超特盛」も販売したことで、メディアが飛びつき、一気に認知度が高まって「小盛り」がよく売れた。
さらにモア層を呼び込むためにライザップとコラボし、牛丼のご飯の代わりに野菜サラダを敷き詰めた「ライザップ牛サラダ」。ポケットモンスターとコラボして、注文するとポケモンのフィギュアがもらえる「ポケ盛」も発売した。これらもメディアに取り上げられ、健康志向の女性客や家族連れなどの新たな客層の開拓につながった。
牛丼の売り方を変えたことで、吉野家の既存店売上は19年3月以降、前年同月を上回った。吉野家HDの20年2月期の連結売上は2,162億円(前期比6.8%増)、営業利益39億円(前期は1億円)と増収増益。最終損益は前期の60億円の赤字から、7億円の黒字に転換した。まさにマーケティングの成果である。伊東氏は「牛丼マーケティングの寵児」と絶賛され、マーケティング業界で知らぬ者がいないほどの有名人となった。
インフルエンサーマーケティングで成功
伊東氏のメディア戦略はインターネットの活用で、SNSがメディア戦略の柱になった。SNSを活用するマーケティングはインフルエンサーマーケティングと呼ばれる。主にSNS上で大きな影響力をもつ「インフルエンサー」に製品やサービスをPRしてもらい、口コミを通して購買など消費者の行動に影響を与えるコミュニケーション型のマーケティング手法だ。
伊東氏はマーケティングのターゲットをインフルエンサーに絞った。彼らがSNSで「面白い」とか「かわいい」と発信したことが「小盛り」「ライザップ牛サラダ」「ポケ盛」などのヒットにつながった。
ウケ狙いのつもりが…
伊東氏は「敏腕マーケター」としての名声が高まり、大学からも講師に招かれた。驕り高ぶったのか、それともサービス精神が旺盛だったのだろうか。
『週刊文春』デジタル版(4月20日付)が伊東氏の人物像について関係者の話を載せている。
〈「高校時代に落語研究会に所属していたこともあり、相手の反応を見ながら語り口を変えて、『話しながらずっと頭で計算しているんです』とも」(P&G関係者)」〉
〈「ダジャレが好きで、宴会では股間から白鳥の頭が伸びた露出度の高い服を着て同僚を楽しませていました」(別のP&G関係者)〉
マーケターにとって、「平凡」は「無能」を意味するため、人をアッと驚かせるよう言動をとる傾向がある。「生娘のシャブ漬け」発言は、ウケ狙いのつもりが、ものの見事に滑って失敗した典型的なケースだ。しかも、自身が得意とするSNSで大炎上したのだから皮肉である。吉野家は伊東氏を解任、コンサルティング大手のアクセンチュアは伊東氏と結んでいた社外アドバイザー契約を解除した。
ことわざは以下のような教訓を伝えている。「策士策に溺れる」「口は禍の門」「覆水盆に返らず」。
(了)
【森村 和男】
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