2024年10月01日( 火 )

日本企業が注意すべき経済制裁の要点

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経済安全保障専門家 北島 優斗

ロシア イメージ    ロシアによるウクライナ侵攻から2カ月が過ぎるなか、欧米とロシアの激しい対立が続いており、国際社会では欧米主導で対露経済制裁が強化されている。すでにモスクワやサンクトペテルブルクなど各都市ではマクドナルドやスターバックス、アップルなど世界的な欧米企業が営業停止や撤退などを発表している。欧米主導の経済制裁により、モスクワ市長は今後こういった外資系企業で働く20万人が職を失うとの懸念も示している。

 日本企業でも、トヨタや日産などが現地での操業を停止している。この対立は長期化が避けられず、すでに日本企業のロシア離れは加速化している。ジェトロが3月末に発表した調査結果(ロシアに進出する企業211社のうち回答した97社が対象)によると、今後半年から1年後の見通しとして、「ロシアからの撤退」と回答した企業が6%、「縮小」が38%と半数近くの企業がロシア離れの考えを示した(その他では、「分からない」が29%、「現状維持」が25%、「拡大」が2%)。また、帝国データバンクが4月27日に発表した企業調査結果(全国2万4561社対象で有効回答が1万1765社)によると、ウクライナ情勢について、「すでにマイナスの影響がある」と回答した企業が全体の21.4%を占め、同様に「今後マイナスの影響がある」が31.4%、「影響はない」が29.6%、「分からない」が16.8%、「プラスの影響がある」が0.7%と全体の半数超でマイナスの影響が聞かれた。この問題が長期化すればするほどロシア離れの日本企業がさらに増えることは間違いない。

 このような中、日本企業には1つ注意すべき点がある。それは、経済制裁のなかにある一次制裁と二次制裁という概念だ。これを簡単に説明すると、一次制裁とは対立する2カ国間のなかで発生する経済制裁で、正にトランプ時代に激化した米中貿易摩擦はこれにあたる。米国が中国に制裁を発動し、中国も米国に制裁を発動するという相互制裁合戦となるのだが、米中以外の第3国は直接的にその影響は受けないというものだ。最近、日本が高級品目のロシアへの輸出を禁止したことも一次制裁に当たる。

 二次制裁とはもっと範囲が拡大したもので、たとえば、米国が中国に制裁を発動するなか、その中国と取引を行う第3国も同様に制裁の対象に加えるというものだ。具体的なケースを挙げれば、米国で昨年12月に可決された、人権侵害を理由に中国・新疆ウイグル自治区からの輸入を全面的に禁止するウイグル強制労働防止法がそれにあたり、各国の企業は生産過程で人権侵害がなかったことを事前に証明する必要性に迫られ、それができなければ制裁の対象となる。また、中国で昨年6月に可決された反外国制裁法もそれにあたり、同法には「中国が外国から不当な制裁や内政干渉を受けた場合、その関係者たちの国外追放や入国禁止、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引中止などで対抗でき、外国政府による不当な制裁に第三国も加担すれば、中国はその第三国にも報復できる」と明記されている。要は、外国同士の制裁合戦だと対岸の火事のように眺めていても、場合によっては自分たちが制裁に巻き込まれ、マイナスの影響を受ける恐れがあるのだ。

 米中貿易戦争では、長期化によって影響が一次制裁から二次制裁の範囲にまで拡大している。それと同じように欧米とロシアの対立も長期化が避けられないことから、その影響は今後さらに二次制裁の範囲に拡大することだろう。

 欧米とロシアの対立は、日本と欧米の貿易関係に影響はおよぼさないと考える人もいるだろうが、「この日本企業はロシア企業と関係がある」として欧米企業から距離を置かれ始め、結果的に日本と欧米の貿易関係に摩擦が生じ始めることも十分にあり得る。日本企業はこの点を今後さらに注視していくべきだろう。

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