新造船が導入された宮崎カーフェリー(後)
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運輸評論家 堀内 重人
新造船の内外装イメージ
「フェリーたかちほ」は、21年3月12日に起工、同年10月20日に進水を行った。その後、乗務員訓練などを経て、22年4月15日に宮崎港から就航した。
船体の塗装は旧マリンエキスプレス同様、下半分があずき色であり、上半分が白である。フェリーのシンボルは、煙突に描かれたファンネルマークであるが、「フェリーたかちほ」からは、旧マリンエキスプレスの青一色の煙突の塗装に、旧日本カーフェリー時代に用いられていた鳶のマークが、金色で描かれている。
「鳶」は、神武天皇が宮崎の地から奈良県の橿原へ向かう際、敵が金色の鳶を観て目がくらんで戦意を喪失した縁起が良い鳥であることから、「宮崎と関西を結ぶ」という意味からも、「フェリーたかちほ」から、描かれるようになった。
船内は、宮崎の豊かな自然やトロピカルフルーツをイメージした暖かな色彩になり、ロビーの部分には、伝統芸能の神楽で使用される「彫り物」の切り絵をモチーフにしたデザインになっている。
「フェリーたかちほ」の総トン数は、1万4,200tであり、全長が194m、幅が27.6m、航海速力が23ノットである。出力は、11,652PSのエンジンを二基搭載しているため、23,304PSである。
従来の「みやざきエキスプレス」「こうべエキスプレス」の総トン数が1万1,931t、全長170m、幅が27m、出力が19,800PSのエンジンを二基搭載しているため、39,600PS、航海速力25.0ノットで、最大26.5ノットで航行が可能なため、性能面で劣っているように感じられてしまう。
旅客定員は、個室を増やしたこともあり576名に減少したが、トラックの積載台数は163台で、乗用車が81台である。「フェリーたかちほ」からは、トラックドライバーも、1人用の個室で休息することになり、従来の6人部屋から、大幅に労働環境が改善された。
対する従来の「こうべエキスプレス」「みやざきエキスプレス」の旅客定員は690名で、トラックが130台、乗用車が85台積載することができることと比較すれば、トラックの積載台数が130台から163台に増加していることから、船舶を大型化して、慢性的なトラック運転手不足に対応しようとしていることがわかる。
だが「フェリーたかちほ」は、従来のフェリーと比較すれば、出力が低下したうえに最高運航速度も低下しているため、「運航速度の低下や、安全性で問題はないのか」という疑問が生じるかもしれない。
その点に関して宮崎カーフェリーにヒアリングすると、「従来船は出力が大き過ぎて不経済な点があった。最高運航速度も25ノットとなっていたが、実際は25ノットも出すことはなかった。船体が大きくなり、トラックの積載台数が増えたにも関わらず、エンジン出力が低下したが、運航速度や安全性の低下もありません。船体の構造を変えることで、より省エネ対策を図っています」とのことだった。
「フェリーたかちほ」乗船の感想
「フェリーたかちほ」は新造船であることから、従来船と比較すれば、バリアフリー対策が進んでいるうえ、階段なども緩やかになり、昇降が楽になった。
従来船は、バリアフリー法が施行される以前の建造であることから、船内にエレベーターなどがないうえに、階段も急だった。また新造船に置き換わったことで、空調などの効きが良くなり、快適な旅が可能となった。
筆者は、新造船に置き換わったことで、「防音性が向上する」と期待していたが、1人用の個室は、窓がない個室である。エンジンに近い船体後方に設けられたこともあり、従来船よりは大幅に向上していたが、同じような時期に導入された名門大洋フェリーの新造船と比較すれば、静寂性では劣っていた。
その代わり、歯ブラシ、ひげそり、クシなどのアメニティーセットが備わるなど、乗客に対する配慮があった半面、浴衣は備わっていなかった。
宮崎カーフェリーにヒアリングしたところ、1人用個室よりも上級クラスの個室になれば、エンジンという「音源」から離れた上層階になるだけでなく、船体の前方の方に設けられているという。
食堂は、従来と同様、朝夕共にバイキングスタイル。窓が設けられたため、海を見ながらの食事が可能になるなど、船旅の魅力が向上した。
風呂に関しては、瀬戸内海を航行する名門大洋フェリーの浴槽と比較すれば、浅かった。宮崎カーフェリーは神戸港を出港すれば、室戸岬沖を航行するため、瀬戸内海を航行するフェリーよりも揺れることから、湯がこぼれないようにする配慮だという。
ほかの関西~九州間を結ぶフェリーのなかで、宮崎カーフェリーは、船の老朽化が進展するなど、設備面などでサービス水準が低かった。しかし、新造船「フェリーたかちほ」就航により、関西~宮崎間の旅が快適になるだけでなく、トラックの積載台数が増えると同時に、トラック運転手の部屋も1人用個室にグレードアップするなど、トラックドライバーからも支持され、物流業界のモーダルシフトにも貢献するように感じた。
(了)
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