2024年11月25日( 月 )

【BIS論壇No.381】岸田政権の新しい資本主義

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。今回は6月2日の記事を紹介する。

国会 イメージ    岸田政権発足以来、鳴り物入りで喧伝されていた、政権の目玉政策「新しい資本主義」の概要と実行計画案が政府より5月31日に公表された。

 3万人のための情報誌をうたい文句にしている月刊『選択』6月号は『岸田無能の象徴「新しい資本主義」』と手厳しい評価を下している。(同誌56ページ)

 6月1日号の朝日新聞社説でも「新しい資本主義 分配重視の理念消えた」、「岸田首相はもう『新しい資本主義』の看板をおろしてはどうか」「首相が当初掲げた『分配強化』の理念が消えてしまった。過去の政権下で何度も焼き直された『成長戦略』の繰り返しなら、『新しい』の名には到底値しない」と批判している。

 実行計画では今年度から拡充した「賃上げ促進税の周知徹底を図る」との記述があるのみだ。政府が強調した今春闘でのベースアップは1%に届いておらず円の為替レートが1ドル130円内外の円安の余波で輸入物価は高騰。食品を始め、日用品、ガソリンなどが軒並み、値上げされている状況では、格差是正も成長と分配の好循環など実現は困難だろう。

 新しい資本主義と骨太方針案の実行計画案は重点投資の(1)人への投資、(2)科学技術、(3)スタートアップ(新興企業)、(4)脱炭素、デジタル化の4本柱で構成されている。

 分配では労働賃金の引き上げ、保育師や看護師らの処遇改善、出世払い型奨学金の本格導入、成長分野では10年間で150兆円規模のグリーン投資、世界的な研究大学をつくるための10兆円ファンド支援。スタートアップ(新興企業)を10倍にする5カ年計画、AI(人工知能)や量子技術開発での科学技術立国支援案など「人」「技術」を中心に、改革や投資を促し、あわせて防衛力の強化などが提案されている。しかし、岸田首相の当初の「新しい資本主義」は変質し、旧来型のバラマキに回帰との批判もあり、その実現は容易ではないと思われる。

 国連が主導し、世界的な運動が展開されているSDGs(持続的な開発目標)の達成度でも日本は19位に後退。「つくる責任、つかう責任」も最低評価だと国連と連携する国際的な研究組織「持続可能な開発ソリューション・ネットワーク」が6月2日発表した。17あるSDGs達成目標では6つが日本は最低評価で、さらに低評価だったのは、女性議員の数、男女の賃金格差、プラスティックごみ輸出、二酸化炭素の排出量など低評価されているありさまだ。 

 技術開発で重要な教育研究面でみても2022年度アジア大学ランキングでも中国、シンガポール、香港の大学に先を越され、東大6位、京都大12位など50位には5大学のみ、100位には8大学しか入っていない惨憺たるありさまだ。OECDの調査によれば、日本の平均賃金は90年からの30年で18万円しか増えていない。1人あたりの購買力平価では日本は36位に落ち込み、シンガポール、韓国に抜かれ、株式時価総額でも世界の4%を切り、ジャパンパッシングが進行。岸田政権の「新しい資本主義」は抜本的再検討が必要だ。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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