今後の日韓、日中関係~昨今の国際政治から読み解く
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国際政治学者 和田 大樹
ロシアによるウクライナ侵攻で世界情勢は激変し、欧米や日本とロシアの関係は冷戦後最悪のレベルとなっている。一方、米中の戦略的競争はロシアによるウクライナ侵攻とは別に依然として続き、韓国では5月に尹錫悦新政権が誕生した。これらによって今後、北東アジア情勢はどのように変化していくのか。また、日本経済にどのような影響を及ぼすのだろうか。
それを探る上でポイントになるのが、5月のバイデン大統領の日韓歴訪だ。バイデン大統領はまず韓国を訪問。尹大統領との米韓首脳会談では北朝鮮情勢などの安全保障だけでなく、半導体サプライチェーンにおける協力など、経済面でも米韓関係を強化する方針を示した。文在寅政権時代の米韓関係は冷え込んでいたが、今回の会談は、まさに米韓関係の転換点と言って良い。また、尹大統領は対北朝鮮政策において、日米韓3カ国の連携を重視し、日本で開かれた日米豪印クアッドにも強い関心を示した。
バイデン大統領は日本での日米首脳会談で、ウクライナ侵攻当初からロシアに厳しい姿勢を示し、米国と足並みをそろえている岸田政権の対応を評価し、中国の海洋進出が強まることによる台湾有事への懸念を共有した。その後開催された日米豪印によるクアッド首脳会合では、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、6兆円規模の途上国へのインフラ支援が発表された。これは事実上、中国が進める一帯一路への対抗策となる。
一連の出来事から、今後の日韓、日中関係を予測するのは容易だ。まず、現時点では日韓の指導者が対面していないものの、尹大統領のビジョンや戦略を考慮すれば、日韓関係は改善に向かう。昨今、北朝鮮がミサイル発射など行動をエスカレートさせているなか、米韓両軍は、それに共同で対処する姿勢を鮮明にしており、尹政権の安全保障観は基本的に日本とマッチしている。岸田政権も日韓関係は「待ったなし」との姿勢を示しているが、その背後には、中国や北朝鮮、そしてロシアなど日本を取り巻く安全保障環境がいっそう厳しくなっているため、隣国韓国との協力関係がこれまでになく必要だという考えがある。
一方、今後懸念されるのが日中関係の行方だ。今回の日韓歴訪は、バイデン政権にとって大きな収穫となったが、間違いなく中国は、それを自らの利益に対立する動きと捉えている。岸田政権が米国並みにロシアに対して厳しい姿勢を貫き、対中国で日米、日米豪印による結束を強めるのは日本の安全保障を考えれば十分に理解できる。しかし、こういった構図の長期化は中国を最大の貿易相手とする日本の経済に不安を与えることになる。2005年の小泉総理の靖国神社参拝、12年の尖閣諸島国有化の際、中国では現地の日本企業が破壊や略奪の被害に遭い、中国政府は日本向けのレアアース輸出規制に踏み切った。現時点で何か大きな影響が出ているわけではないが、日韓関係と相反し、今後、日中関係が冷え込む可能性があることを我々は忘れるべきではないだろう。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
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