2024年12月22日( 日 )

失敗に終わりつつあるロシアのウクライナ侵攻

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国際政治学者 和田 大樹

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    ロシアのウクライナ侵攻からもうすぐ4カ月。当初はロシア軍の圧倒的な戦力の前に首都・キーウは数日以内に陥落するといった「ロシア優勢」の見方が強かった。しかし、米国や英国など、欧米諸国による積極的な軍事支援もあってウクライナ軍が予想以上に抵抗し、ロシア軍の劣勢が目立ってきている。これまで、ロシアはチェチェンや南オセチア、クリミア半島などにおける戦闘で軍事的勝利を収めていたため、おそらくプーチン大統領は、今回のウクライナ侵攻も一定の期間で、首都キーウを掌握し、ゼレンスキー政権を崩壊させられると思っていたに違いない。しかし、それが達成される可能性は日が経つごとに低下し、プーチン大統領のウクライナ侵攻は戦略的に失敗したと言ってもいいだろう。しかし、プーチン大統領は、もっと大きな失敗に直面していると筆者は考えている。それを理解するうえでは、今日の世界情勢をもっと広い視野でみていく必要がある。

 ウクライナ侵攻を決断したプーチン大統領には、ウクライナだけでなく、西側諸国をけん制する狙いもあったはずだ。プーチン大統領は長年、NATOの東方拡大に苛立ちや警戒心を抱いてきたが、プーチン大統領が就任してから20年あまりの間、NATOは徐々に東方にプレゼンスを拡大していった。そして、自らの勢力圏(プーチン大統領は旧ソ連圏を自らの勢力圏と位置づける)にあるウクライナまでもがEU接近、NATO接近を試みたことで怒りが沸点に達し、侵攻という重大な決断を下すこととなった。ウクライナに侵攻することで、ロシアの脅威を西側諸国に改めて示し、これ以上のNATO拡大を抑止したいという狙いがプーチン大統領にはあったのだろう。

 しかし、現在、それは完全に裏目に出ている。ウクライナ侵攻により、近隣諸国の対ロシア脅威論が高まるなか、ロシアと1300㎞にわたって国境を接するフィンランドは5月にNATO加盟に向けた正式な申請を行った。これまでフィンランドはNATOの東方拡大を強く警戒するロシアの思惑を考慮し、NATOには加盟せず、軍事的中立の立場を取ってきた。それだけフィンランド国内ではロシアへの脅威が強まっている。また、フィンランドと同じように軍事的中立の立場でNATOに加盟して来なかったスウェーデンもロシアの脅威を直視し、5月にNATO加盟に向けた正式な申請を行った。NATO加入には全加盟国の同意が必要だが、現在、トルコが反対の立場を表明している。しかし、仮に加盟するとなれば、NATO拡大阻止を訴えてきたプーチン大統領の戦略とは180度異なる状態が現実のものとなる。ウクライナ侵攻によって、逆にNATOが拡大してしまうというまったくの大誤算、大失敗である。

 さらに、ロシアのウクライナ侵攻は、日本の行動も大きく変えようとしている。今月下旬にドイツで開催されるG7サミットに合わせるかたちで、スペイン・マドリードで開催されるNATO首脳会合に岸田首相が参加することが、先日明らかとなった。日本がNATOに加わることはないが、日本の北方で懸念が高まるロシアの軍事的活動を念頭に、価値観を同じくするNATOとの結束を強化しようとする狙いが岸田政権にはある。仮に日本とNATOの軍事協力が強化されるようになれば、プーチン大統領は、西側・東側双方でNATOと対峙することになる。

 ウクライナ侵攻は、西側でのNATO拡大、そしてNATOと日本の接近というプーチン大統領にとっては「ほしくないプレゼント」を提供している。これはウクライナでの戦況以上に大きな失敗といえるかもしれない。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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