2024年11月21日( 木 )

カンヌ国際映画祭とウクライナ戦争、そして世界の平和(後)

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ユナイテッドピープル(株)
代表 関根 健次 氏

特別上映されたウクライナのドキュメンタリー

 特別上映作品として『マリウポリ2』という文字通り命をかけたドキュメンタリーが5月19日に上映されることを知り、観ることにした。タイトルから連想できる方も多いだろうが、今回のウクライナ戦争で大きな被害が出ている場所を舞台にしたドキュメンタリーだ。ただでさえ現在進行系で起きている戦争の最新の実態を伝える映画だから、観たいという気持ちが強かったのだが、実はこの映画の撮影中の4月に不幸にもリトアニア人のマンタス・クベダラビチュス監督が殺害されてしまっていた。フィアンセで本作の共同監督であるハンナ・ビロブロバさんが、ご遺体を探し、映像を必死の思いでウクライナ国外に持ち出し、制作チームと急ピッチで映画を完成させ、今回の上映に間に合ったのだという。

 ウクライナで起きている戦争の現実を知りたいと集まった大勢の観客を前に、ハンナさんや制作チームが登壇、ハンナさんは涙ながらにスピーチした。

「カンヌ国際映画祭に感謝したい。マンタスの最新映画を披露できることを誇りに思います。彼は映画監督として、また人類学者として常に人々を撮影して来ました。皆さんありがとう。そして作品を完成させた制作チームに感謝したい。ありがとう」

 フィアンセの遺志を受け継ぎ、完成させるまで、どれほどの苦労があったことだろう。今日の上映に間に合わせるために映画を完成させた彼女や制作チームの姿を見て、私は涙をこらえることができなかった。

 ハンナさんがスピーチを終えると、自然とスタンデングオベーションが起きた。命がけで映画を完成させた彼女たちの志に皆がエールを送ったのだ。これまで、さまざまな現場に居合わせてきたが、このシーンは強く印象に残った。

 彼ら彼女たちの血と汗がにじむような努力により映画は完成した。その努力に心から敬意を払うことができ、映画人の心意気に触れられたのは貴重な体験となった。

カンヌ国際映画祭

 残念ながら、映画そのものは、監督が撮りためた映像を、上映に間に合わせるために何とか繋ぎ合わせたという印象が否めず、完成度としては評価が難しい作品だった。しかし、注目すべきは淡々と映し出されるディテールだろう。これまでの平穏な暮らしが、ロシアの侵略により突然壊れるとどうなるのかが次々と映し出されていた。爆撃音がしても慣れてしまった住民は、恐れる様子も見せずにタバコを吸い、料理を作り、犬に餌をやり、談笑する。戦争が日常になり、空爆に慣れてしまった人々の姿に戦争のリアリティーを感じた。

カンヌ国際映画祭

 前夜、『トップガン マーベリック』の上映に合わせてフランスの戦闘機が空を舞った。ジェット戦闘機の爆音を聞き、『マリウポリ2』の制作チームたちは何を思っただろう。

映画で平和な世界を築く

 今回のカンヌ国際映画祭はウクライナを身近に感じられるものとなった。私は「映画が世界の平和のためにできることは何か」を考えた。ウクライナ戦争に直面し、「映画業界の人間として何ができるのか?」と。ウクライナだけではなく、世界の平和や世界の課題解決のために映画ができることは何かという問いへの答えは、以前から現在に至るまで変わることはない。それは、「映画は、直接的に戦争を止めることも、気候変動も止めることはできない。しかし、映画を観た1人ひとりが、映画を観て感動し、平和や持続可能な未来のために行動を起こすことができる。人間が生み出した問題は、人間自身が解決できる」というものだ。

 今のところウクライナに関する映画の公開予定はないが、半世紀以上、イスラエルとの間で紛争が続くパレスチナに関連する映画を7月から配給する。『ガザ 素顔の日常』には世界のどこの地域とも変わらない、学校に通い、働き、余暇を楽しみ談笑する”紛争地”の人々の日常が描かれている。

 ウクライナのように突然戦争が始まり、自らの家や学校や職場が粉々に破壊され、友人、知人、家族が殺されてしまう。映画を通じ、そうした現実を知っていただくことで、少しでもこの地域への関心が高まり、平和の実現のために行動する人が増えたらと願っている。

 知らなければ、何も変えられない。しかし、知ることで認識が変われば、それが行動の変化へとつながり、その行動が世界を変革することにつながると私は確信している。

(了)

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