2024年11月20日( 水 )

バイデンの新たな対アジア戦略 振り回される岸田政権(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

天然痘の悪夢再来も

 コロナとサル痘のダブルパンチで、アメリカでは「秋の中間選挙は延期せざるを得なくなるのでは」といった観測も出ています。支持率の急落で厳しい選挙になるバイデン民主党にとっては「願ってもない感染症」かもしれません。

 日本政府は「現時点では国内での感染は確認されていない。しかし、WHOとも連携し、注意を怠らないようにしたい」とのこと。6月10日からは海外からの旅行者の入国制限も緩和され団体の観光客が入国し始めています。このまま、十分な対策を講じないまま海外からの旅行者の受け入れを緩和し続ければ、日本でも深刻な被害が発生することになることは「火を見るよりも明らか」でしょう。

   先に来日したバイデン大統領に関して、日本のメディアは一切触れませんでしたが、実に深刻な発言を繰り返していました。それはこのサル痘に関してです。「サル痘への対策が緊急を要する」と述べ、クアッド首脳会談においても、新型コロナウィルス感染症と世界健康安全保障に関連させ、「パンデミックに発展する潜在性を有する新規と新興の病原体の早期発見とモニタリング能力の向上」に言及したのです。

 すでにイスラエル、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、スペイン、ポルトガル、ベルギー、スウェーデン、アメリカ、カナダ、オーストラリア、UAEなど20カ国以上で感染者が相次いでいるため、かつて天然痘の蔓延によって3億人が命を失った悪夢の再来が懸念されるわけです。

 こうした事態を予測したかのように、アメリカ政府はサル痘用のワクチン1,300万回分の緊急発注を決定しました。1億2,000万ドルです。アメリカのみならず、ヨーロッパでもこのサル痘に関する予防ワクチンへの発注が相次いでいます。目ざといバイデン大統領は「アメリカ国民全員に行き渡る量を入手するので安心してほしい」と発言。流石です。とはいえ、問題は専門家の間で「現在拡大中のサル痘はアフリカ由来のウイルスとは違い、人工的な手が加えられている」との指摘も出ていることです。

日米韓の連携強化を

 いずれにせよ、バイデン大統領は先の日本訪問で大きな成果を得たことは間違いありません。なぜなら、「先の見通せない」ウクライナ情勢の悪化をテコに、ロシアによる軍事侵攻を批判する同盟国の連携を深め、ウクライナのゼレンスキー政権を支援する体制を構築できたからです。バイデン政権は大量の武器や資金を提供していますが、終わりの見えない戦況のため、アメリカはウクライナにくぎ付け状態となっています。そのため、「最大の競争相手で脅威の源泉」と受け止めていた中国と向き合う経済、軍事的余裕が失われつつあるわけです。その埋め合わせを日本に期待してきたのがバイデン政権に他なりません。

 日本とすれば、アメリカとの同盟関係を最重要視する立場から、バイデン政権の意向を最大限、受け止めました。アメリカはウクライナへの軍事支援を通じて、ロシアとの代理戦争に突入してしまったも同然です。その結果、「敵の敵は味方」という状況が生まれ、アメリカの経済制裁を受けるロシアと中国が手を結ぶ可能性が急速に生まれてきました。

 もしアメリカが中国を封じ込めたいと思うなら、ロシアと代理戦争状態に陥り、ロシアと中国を結びつけるような事態を招来するのは愚の骨頂としか言いようがありません。なぜなら、ウクライナ戦争が長期化すれば、中国はアメリカの圧力を受けることなく東アジアや西太平洋一帯で自国の影響力の拡大に邁進できることになるからです。

 バイデン政権はそうした戦略上の失敗から形勢を逆転させようと、韓国と日本との戦略的な同盟関係を強化しようと動き始めたことは論を待ちません。いわゆる「日米韓3国同盟」です。折から韓国には保守系のユン新政権が誕生し、新大統領はアメリカとの同盟関係の強化と日本との関係改善に前向きな姿勢を打ち出しています。バイデン大統領が韓国を最初の訪問国にし、ユン大統領との首脳会談を最優先したのも、対中政策上、日本と韓国を促し、日米韓による連携の強化を図ろうとするものです。この1点からもバイデン大統領の外交巧者ぶりが見て取れます。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

https://www.data-max.co.jp/article/48035

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