中国による経済の武器化顕著に 日本への影響は?
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国際政治学者 和田 大樹
多くのメディアでも指摘されるように、日本企業を取り巻く国際情勢は不確実性、不透明性に溢れている。誰も正確な答えを企業に提供できる情勢ではない。そして、このような国際情勢において、日本企業が最も懸念しているのは中国問題だろう。
今年に入り、ウクライナ侵攻によって日露経済が冷え込むだけでなく、いわば世界的な“物価高パンデミック”が起こり、多くの企業が翻弄されている。日本経済に占める中国のシェアを考えると、日中経済において大混乱が起きれば、その影響はロシア情勢の比ではないだろう。
岸田政権は、対中国、対ロシアで厳しい姿勢を示し、これまで以上に米国(および欧州)との結束を強化している。岸田総理がNATO首脳会合に日本の総理として初めて参加した意味を、米国、そして対立する中国もロシアも理解している。日本が民主国家で法の支配を順守し、米国が唯一の軍事同盟国という立場を考慮すれば、岸田総理の外交・安全保障政策は評価されるべきだろう。しかし、筆者の周囲の企業経営者の間では、そうした岸田総理の姿勢によって日中経済関係が悪化するとの懸念も多い。
具体的には、中国が経済を武器化し、それを日本への対抗措置として援用してくるリスクだ。プーチン大統領がウクライナに侵攻し、結果として多大な経済制裁に遭っていることは習近平政権も理解している。他国への攻撃としての軍事的オプションを選択するハードルはいっそう上がるなか、経済の武器化は中国にとってより重要な手段となる。
実際、中国は近年そのことを内外に顕著に示している。たとえば、バルト3国の1つを形成するリトアニアは昨年11月、事実上の大使館にあたる台湾の名称を冠した代表機関を首都ヴィリニュスに開設したと明らかにしたが、その後、中国はリトアニアとの外交関係を大使級から代理公使級に格下げするとともに、経済的な報復として牛肉の輸入停止に踏み切った。
関係が悪化する台湾とオーストラリアとの間でも、中国は昨年3月、台湾産パイナップルの輸入停止を突然発表し、今年6月には、禁止薬物が検出されたとして、台湾産高級魚ハタを一方的に輸入停止にすると発表した。また、中国はオーストラリア産のワインや大麦、牛肉などに多額の関税を課すか、輸入を禁止するなどの措置を講じている。
当然ながら、中国側による輸出入制限や関税引き上げといった措置について、安易にすべてを政治的報復措置と捉えるのではなく、それについて十分な説明を求めるなど客観的な理性も必要だ。しかし、そういったことが十分に納得のいくかたちで中国側から示されたことはほとんどなく、実行されたタイミングを政治的に考えれば、やはり経済の武器化という高い蓋然性は避けられない。
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ウクライナ情勢、日中経済への影響は2012年に日本が尖閣諸島国有化を発表した際、中国が一方的にレアアースの対日輸出制限に踏み切ったことがある。現在の大国間関係、そのなかでの日本のいまの立ち位置の長期化は、中国による経済の武器化が再び日本に向かうリスクがあることを念頭に置いておく必要があろう。
中国にとっても日本は重要な市場であり、日本を政治的に揺さぶる程度の措置にとどめ、多くの日本企業に突然影響がおよぶような行動は控えるだろうが、日本企業はこのリスクを今後注視する必要がある。
<プロフィール>
和田 大樹(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
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