2024年11月23日( 土 )

亡くなる直前の安倍元首相の気になる発言(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 こうした危機感が背景にあり、安倍氏は岸田首相にもことあるごとに防衛費の増額を進言していました。アメリカ製の武器やシステムを購入してくれれば御の字ですが、日本が自前で軍事力を開発、整備することは「アメリカという虎の尾を踏むこと」になりかねなません。しかも、NATO首脳会議の場において、ロシアと中国との対決に備えよと厳命を受けた岸田首相からの報告を受け、安倍氏は腹を決めたに違いありません。それは、アメリカとはケンカはできないが、ロシアや中国とも水面下で手を握るという両面作戦です。

自衛隊 イメージ    安倍氏はプーチン大統領と28回も面談を重ねていました。曰く「プーチンは現実主義者だ。彼は武力、とくに軍事力とエネルギー力を経済力に転嫁する発想を重視している。理想主義者ではない。ロシアが強くなれるか、弱くなってしまうか、それがプーチンの最大の関心事なのだ。そのことを分かったうえで、手を組めば良い」。

 確かに、プーチン大統領は人にワインを勧めるが自分は飲みません。恐らく、KGBでの訓練の賜物と思われます。ところが、安倍氏が地元山口でプーチンを接待した際、地元名品の「東洋美人」を勧めたところ、「2回も飲んでくれた」というのが安倍氏の自慢でした。安倍氏は「プーチンが自分には心を開いてくれた」と確信したようです。

 ウクライナ戦争で、欧米から経済制裁を受けているロシアです。日本がアメリカの圧力もあり、対ロ制裁を強化しているため、ロシアは日本の国会議員の大半を入国禁止の対象にしました。ところが、安倍氏はその対象から外されていたのです。それだけ、プーチンは「安倍とのパイプは切れない」と思っていたのでしょう。

 逆に、安倍氏からすれば、それだけ信頼されているから、サハリン2の件も含めて、「自分が直接交渉すれば、プーチンも自分のいうことを聞いてくれるはずだ」と考え、水面下での交渉に望みを託していたようです。「プーチンの首を挿げ替える」と息巻くアメリカにとって、安倍氏は目障りな存在と映ったに違いありません。

 一方、習近平国家主席は秋の共産党大会で3期目の信任を得て、中国経済を世界一にすると同時に、台湾統一の実現を目論んでいることは間違いないでしょう。安倍氏曰く「その思いを甘く見てはなりません。ウクライナと台湾の違いは大きいです。領土の一貫性、経済力の違いも無視できません。独立国のウクライナと「一つの中国」の一部である台湾ですから。台湾を独立国として承認する国はごくわずか。ロシアと違い、中国への経済制裁は簡単には行きません」。

 安倍氏は台湾との関係を大事にする半面、中国との関係維持にも腐心していました。日米の離反を試みる中国からはさまざまな特使が日本を訪問しています。なかには習近平主席の懐刀と目される大物もいました。その都度、安倍氏は密かに懇談を重ねてきたのです。彼らは表向き岸田首相や政府の要人との面談は叶いません。

 そこで中国側が最も重視したのが、1期目の首相就任後、真っ先に北京を訪問した安倍氏でした。また、2期目の長期政権下においても訪中し、習近平氏と直接交渉し、国賓として訪日を要請した安倍氏への評価と期待は大きいものがあったようです。台湾との関係を重視する安倍氏を通じて、中国は面子の立つ台湾との統一の落としどころを探っていました。

 安倍氏曰く「中国はアメリカの関与無しで台湾統一を目指しているはず。日本は中国の軍事的侵攻を防ぐ手立てを考える必要があります。重要影響事態から存立事態への格上げも検討すべきです。米軍と自衛隊の共同展開への道筋もつけねばなりません」。これは明らかにアメリカを意識した発言でした。

 その裏で、安倍氏は中国と台湾がギリギリ納得のいく妥協策を練り上げようと動いていたわけです。その要は領土割譲の具体案でした。しかし、この案はアメリカの容認できるものとはなりませんでした。そのことを、死をもって明示したのが安倍元首相だと思われます。改めてご冥福をお祈りする次第です。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

(中)

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