JR九州におけるハイブリッド気動車の可能性(前)
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運輸評論家 堀内 重人
JR東海が導入したハイブリッド気動車HC85系
JR東海では、現在使用中のキハ85系気動車の置き換え用として、ハイブリッド方式のHC85系気動車(写真1)が今年7月1日から特急「ひだ」2往復で運転を開始した。
HC85系気動車の「HC」は「Hybrid Car」の略であり、ディーゼルエンジンで発電を行い、そこで得た電気やバッテリーに蓄えた電気で駆動する仕組みである。バッテリーに蓄える電気は、制動を使用したときに得た電気である。
そのため、従来型の気動車とは駆動システムが大きく異なり、電気で駆動するため、形式なども「モハ」「クモハ」「クモロ」など電車と同じ扱いになった。電車の運転免許で、HC85系気動車の運転が可能となるため、乗務員の養成コストの削減にもつながっている。
ハイブリッド方式が採用され、1両当たりのエンジン数は、従来型のキハ85系気動車では350PSのエンジンが2台だったが、450PSのエンジン1台で対応が可能となり、燃費が35%も向上すると見込まれている。このエンジンで1両当たりに145kWのモーターが4台搭載されており、大容量のバッテリーと相まって最高運転速度は120km/hを維持する。
また燃費と静寂性を向上させるため、客用のドアが開いた状態では、エンジンを停止するアイドリングストップ機構を搭載するだけでなく、HC85系気動車は環境負荷を軽減させるため、ミドリムシを原料としたバイオ燃料を使用することが計画されており、今年1月から試験が行われている。
兵庫県を通る第三セクター鉄道の北条鉄道では、なたね油100%の燃料を使用して、自社の気動車を運転する実験に成功している。JR東海では、100%バイオ燃料ではなく、従来の軽油にバイオ燃料を混合するかたちで試験を開始したと聞く。
ミドリムシであれば日本各地の池や湖沼、河川に生息しており、過疎化による人口減少や産業らしい産業がない自治体にとっては、ミドリムシを原材料としたバイオ燃料を国内で製造して供給することで、鉄道車両だけでなく、バスやトラック、自家用車はもちろんであるが、航空機にも適用が可能となる。
これが実現すれば、日本の交通体系だけでなく、エネルギー政策なども大きく変わる可能性がある。
乗車した感想
HC85系気動車が導入された高山本線は、急勾配や急カーブが続く山岳路線である。国鉄時代であれば、「電化」をしてスピードアップを図ろうとしたが、電化を行うにはトンネルの断面が小さいため、トンネルや橋梁などの大幅な改良が必要となる。
そこでJR化後は、高性能な気動車を開発することで、高速列車網を整備してきた。その最初が、1988年12月にデビューしたキハ85系気動車であり、小型軽量の大出力エンジンを各車に2基搭載することで、高山本線で画期的なスピードアップが実現しただけでなく、高い居住性や非常に大きな窓からの眺望や先頭車からの前面展望などにより、利用者からは非常に高い評価を得ている。そのキハ85系気動車も、デビューから30年以上が経過したため、後継車として誕生したのがHC85系気動車である。
HC85系気動車は、キハ85系気動車のような前面の展望が可能な車両がまったくなく、車窓がすばらしい高山本線を走行するには少々残念ではある。
全車が貫通型になったのは、分割併合や多客期に増結を行うためである。またWi-Fiや防犯カメラなど、搭載する機器類が増えたことも、前面展望を妨げる要因となるが、前面展望が可能な車両とすれば、踏切事故が発生した際、運転士の安全性で問題がある以外に、気温が上がり過ぎて冷房の効きが悪くなったりする。グリーン車を展望車にすれば、普通車の客がグリーン車の通路まできて、静かな車内でくつろぎたいグリーン車の利用者には、迷惑な結果となる。
クモロ85は通り抜けのない先頭車で、前面の展望は期待できないが、側窓の大きさはキハ85系気動車と同等であり、高山本線のすばらしい車窓を堪能できる。
HC85系気動車はハイブリッド方式であるから、従来のキハ85系気動車よりも車内の静寂性は大幅に向上しており、電車に乗っている感じがした。乗客にも、電気で走行している様子が、各車に設けられたモニターで表示される(写真2)。
(つづく)
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