2024年11月22日( 金 )

21世記のロスチャイルドを目指した孫正義氏、起死回生なるか(中)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

 半年で約5兆円という、記録的な巨額の赤字を出し、ピンチに追い込まれたソフトバンクグループの孫正義氏。攻めの経営によって快進撃を続けてきたが、世界的な株価暴落などの影響もあり、暗雲が立ち込めている。復活へ向けて、起死回生の策を打ち出せるのか。

強気姿勢を維持

株価 イメージ    自社株の推移については、「上がったり下がったりが激しく、信用買いで買うのは危険なのでお勧めできない。もし、信用買いなら、少し借りて、長く持っていただきたい。僕は必ず上がると信じています」と述べ、「桃栗三年柿八年」とのたとえ話を持ち出し、「10年待てばおいしくなる」と自社株の長期保有をアピール。最後には「これからが僕が本当にやりたかったことに挑戦できる時。やる気満々で、夢満々。髪の毛だけが減っている」と笑いを誘っていました。

 とはいえ、現実は笑ってごまかせるものではありません。なぜなら、21年度のソフトバンクグループの純損失は1.7兆円に達しているからです。孫氏が重視する時価純資産(NAV)に関しても下落傾向が続いており、21年12月末から22年3月末の間で約0.8兆円も減少しています。

 現時点での時価純資産の半分を占めているのはソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)となっています。問題は、このSVFの投資実績が思わしくないことです。SVF1号もSVF2号も上場企業への投資成績は大幅な下落を重ねています。

 さらには、傘下の投資運用子会社「SB Northstar」が7,000億円近い損失を計上し、回収不能見込み額が9,500億円となってしまいました。その結果、孫氏個人も3,200億円を補てんする事態に追い込まれています。そのため、孫氏曰く「火傷をしてしまった。SB Northstarは手仕舞い状態だ」。

 しかし、強気が売りの孫氏です。自らの火傷を認めながらも、返す刀で大胆な未来ビジョンを語ることも忘れません。曰く「いろいろな会社がしのぎを削っているが、ソフトバンクグループの株は一番安いと思う。現在の時価総額と保有する時価純資産の差は10兆円以上ある。中長期的な視点に立てば、必ず株価は上がるので、期待して待って欲しい」。

 そうした自信の表れとして、ソフトバンクグループは昨年11月、「1年をかけて1兆円を上限とする自社株買いを実施する」との計画を発表し、本年5月までに約5,500億円の買い入れを行っています。とはいえ、その背景として、過去1年間でグループの株価が30%以上下落したことが影響していることは否めません。そうした懸念材料を払拭させようとして、孫氏は「さらなる自社株の買い入れを行う」と語気を強めたわけです。

ロスチャイルドになぞらえる

 何しろ、孫氏は常識にとらわれない存在です。昨年の株主総会では自身をイエス・キリストにたとえました。いわく「世間から誤解されることが多い。しかし、多くの人々を救いたい」。そして、今年は「21世紀のロスチャイルドだ」と宣言。「19世紀の産業革命を成し遂げるための資本を投下したロスチャイルドと同じように、自分は21世紀の情報革命を実現するために資本を投入する」との大言壮語です。

 要は、21世紀の情報革命を推進する資本を提供することが、ソフトバンクグループの役割というわけです。なかでも孫氏が力を入れているのが、人工知能(AI)への投資に他なりません。「自動運転、健康管理、小売業、金融、教育などあらゆる分野で、これからはAIが主役を演じることになる」。

 しかし、投資ファンドや金融機関からの借入額は半端ありません。そのため、「Too big to fail」という「借り手優位」の原則を信じているフシがあります。過去の右肩上がり時代に大規模な融資を実行した投資ファンドとすれば、急速に株価が下落したとはいえ、この時点で融資を引き揚げれば、自分たちも大損を被ることになるため、逆に追加の融資を継続し続けなければならないという「進むも地獄、引くも地獄」という抜き差しならない状況に陥っているわけです。

 こうした流れを読み切って「21世紀のロスチャイルド」を演じようとするのであれば、孫氏のビジネス兵法は強か過ぎるといえるでしょう。実際、過去25年間を振り返って見れば、ソフトバンクグループへの投資のリターンは年率43%を記録してきました。しかし、現在ビジョン・ファンドが投資する264社の企業の大半はまったく利益を生み出していません。

(つづく)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。

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