21世記のロスチャイルドを目指した孫正義氏、起死回生なるか(後)
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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸半年で約5兆円という、記録的な巨額の赤字を出し、ピンチに追い込まれたソフトバンクグループの孫正義氏。攻めの経営によって快進撃を続けてきたが、世界的な株価暴落などの影響もあり、暗雲が立ち込めている。復活へ向けて、起死回生の策を打ち出せるのか。
「ポスト孫正義」のビジョンとは?
22年5月末の決算では200億ドルを越える損失を計上したソフトバンクグループです。格付け会社「ムーディーズ」は今年5月、ソフトバンクグループの評価をそれまでの「安定」から「ネガティブ」に格下げしました。過去5年間で1,420億ドルを投資した結果が2兆1,000億円の損失を計上するという惨憺たる結果になったわけで、格下げも当然でしょう。
孫氏は「夢満々」をアピールし、個人投資家の夢を裏切らないと約束しています。幹部の人心一新も図り、自らが「投資先の選定にはより慎重に対応する」と意外な低姿勢を見せ始めました。はたして、「21世紀のロスチャイルド」を自画自賛する孫氏が慎重居士に変身できるのでしょうか。それよりも、株主の期待に応えてキリストの如く復活できるのかが気になるところです。
期待と不安が混じり合うソフトバンクグループの未来です。去る8月8日、22年4~6月の決算発表が行われました。最終損益は3兆1,627億円の赤字。1~3月の第14半期にも2兆1,006億円の赤字を計上していましたので、この半年で約5兆3,000億円もの損失を出したことになります。日本の上場企業としては過去最大の赤字です。
説明会に登場した孫正義会長ですが、これまでと打って変わって慎重居士に終始しました。「今回の巨額赤字は、私の指揮官としての責任だ」と反省の弁。驚いたことに、会見の冒頭、徳川家康が武田信玄との合戦に大敗したときに自らの慢心を諫めるために描かせたとされる肖像画“しかみ像”をスライドで映し出したのです。これまで、自らをイエスキリストやロスチャイルドになぞらえてきた孫氏ですが、いくら歴史好きとはいえ、戦いに敗れた徳川家康に自らの運命を重ねるという演出には来場者も唖然としました。
しかし、深読みをすれば、「あの徳川家康でさえ、最終的に天下を取るまでには敗北という不名誉を経験しているではないか、自分も大赤字という敗北を糧に最終ゴールの天下取りに向け、臥薪嘗胆の気持ちで挑戦する」との宣言とも受け取れます。
実際、孫会長は徳川家康の肖像画を背にして、「ソフトバンク創業以来、これだけ大きな赤字を2四半期連続で計上したことを反省し、戒めとしたい」と神妙な面持ちで語りました。曰く「大きな利益を生んだ時、やや有頂天になったようだ」。株主を前に巨額な損失を生じた理由として、彼が指摘したのは、「世界的な株価の暴落」と「急速な円安」という外部要因でした。円安の逆風を受け、ドルの負債額は膨らみ、為替差損は8,200億円を計上。
確かに、彼が所有するアリババの株価は暴落し、その他の海外の投資ファンド事業が不振だったことは明白です。とはいえ、中国政府の経済政策を批判した結果、アリババが直面することになる厳しい経営環境は投資家なら誰でも予測できたこと。ソフトバンクの大躍進の原動力となったのはアリババへの初期投資でした。00年に創業間もないアリババの株式を20億円で取得したところ、急拡大を遂げたため、その株式の含み益は10兆円を超え、ソフトバンクグループの信用力の裏付けとなってきました。
14年、アリババがニューヨークにて上場をはたしたことで、孫氏は世界のビリオネアの仲間入りをすることもできたわけです。しかし、似た者同士かも知れませんが、自信過剰気味のアリババの創業者ジャック・マー氏は習近平の怒りを買うような発言を繰り出し、金融子会社アントの上場もお蔵入りとなりました。
いずれにせよ、このたびの業績不振を受け、孫氏は手持ち資金を確保するためアリババの株式を一部手放すことを決断。その結果、ソフトバンクの保有比率は23.7%から14.6%に低下します。これで、ソフトバンクはアリババの「議決権保有」(20%)を失うことになりました。8月10日、ソフトバンクグループはアリババの株式の大半を先渡し売買契約で現物決済すると発表。この結果、第2四半期の税引き前利益に対する影響額は4兆6,000億円に達する模様です。ソフトバンクとアリババの運命共同体も終焉を迎えることになりました。
こうした危機的状況に直面し、投資先の厳選や経費削減のためグループ全体で人員整理を行うと宣言した孫会長ですが、その前途は楽観できません。しかも、「ワンマン経営」で快進撃を続けてきたソフトバンクグループにとっては、後継者の選定、育成も課題となってきています。平成の徳川家康を目指すとはいうものの、孫会長がいつまでも君臨し続けることはあり得ない話。「ポスト孫正義」のビジョンが打ち出されないと、ソフトバンクの未来は本人が危惧するような「絶滅」となることも懸念されます。
(了)
浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』、『世界のトップを操る"ディープレディ"たち!』。法人名
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