2024年11月14日( 木 )

日本経済を破壊した安倍・菅政治(中)

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政治経済学者 植草 一秀 氏

 第2次安倍内閣の発足から、12月で10年の時間が経過する。「成長戦略」の言葉が繰り返されたが、日本経済は成長から完全に取り残された。その一方で進展したのが格差の拡大であり、国民の大半が下流へと押し流された。選挙のたびに各党は賃金の上昇を唱えるものの、実現のための具体的な裏付けがない。いまや日本は世界でも稀有な“貧困経済大国”に転じた。現状を打破するために必要なこと、そしてその可否を探る。

生贄にされた国民

安倍 晋三 元首相
安倍 晋三 元首相

    TPPは日本の諸制度を米国化させるための装置だ。基準はグローバルに活動する巨大資本の利益極大化。グローバル巨大資本の利益のために日本国民の生存権、幸福追求権が侵害されている。TPP加盟により日本の第1次産業は存立の危機に直面している。TPP協議に並行して日米間で締結された協定は、米国がTPP協議から離脱したにもかかわらず有効とされている。日本政府は米国巨大資本の要請に基づき日本の諸制度を改変することを確約してしまった。この協定により、以下のように日本の諸制度の改変が激しい勢いで進められている。

 種子法廃止(18年)は主要農作物に対する国民のアクセスを著しく狭隘化させるもの。日本の食料自給率はカロリーベースで37%(20年)しかないが、この自給率が一段と低下する恐れが高まっている。米国は遺伝子組換え食品、グリホサート系除草剤、成長ホルモン、赤身増強剤、防カビ剤などのリスクが警戒される添加物等の使用大国。日本政府はその米国からの農畜産品流入を野放しにしている。国民の命と健康が重大危機に晒されている。

 労働規制の撤廃は労働者の地位の不安定化と賃金減少をもたらしている。01年に発足した小泉純一郎内閣は派遣労働を製造業にまで拡大したが、その負の側面がリーマン・ショック後の不況における製造業大量雇い止めで顕在化した。しかし、労働者を圧迫する制度変更はその後も止まることなく、むしろ加速して現在に至っている。

 グローバル巨大資本は日本の医療自由化を要請している。いつでもどこでもだれでも十分な医療を受けることを保証する日本の公的保険医療制度は日本が世界に誇れる数少ない制度だ。ところが、この制度も崩壊の瀬戸際にある。公的保険外医療が拡大の方向にあり、すべての国民が十分な医療を受けられる状況は終焉するだろう。米国巨大資本は富裕層向けの民間医療保険ビジネスの拡大を虎視眈々と狙っている。日本では医療の分野にまで貧富の格差が持ち込まれつつあるのだ。

消費税増税のカラクリ

 「民でできることは民で」の言葉はもっともらしく聞こえるが、生活必需品を供給し、かつ独占形態になる事業は公的管理下に置く必要がある。民間事業者は利潤追求を行動原理とするため、民間事業者に独占事業を委ねれば、超過利潤追求にひた走ることは火を見るより明らかだ。

 ビジネスチャンスの枯渇を背景に巨大資本が目を付けたのが公的事業分野。公的事業分野は「民でできる」が「民がやるべきこと」でない。その公的事業分野の権益をめぐりハゲタカ外資に利益供与されている。利益供与の見返りがエージェントにキックバックされていることはいうまでもない。癒着と腐敗の構図が広がっている。

 野田氏が消費税大増税の関連法案を強行に成立させた12年以降、法外な法人税減税が遂行されてきた。07年11月に政府税制調査会は法人税減税の必要性がないことを明らかにしていたにもかかわらず、この税調判断に反する法人税減税が強行されてきた。

 法人税減税を要求したのもハゲタカ外資である。日本の上場企業株式の3割が外国資本保有になった。ハゲタカ外資は日本で税金を払いたくない。そこで、彼らのエージェントに日本でのロビー活動を実行させた。財務省はハゲタカ資本の要請を受け入れ、不足する税の穴埋めを一般庶民にカバーさせようと考えた。これが消費税大増税の主因である。

 消費税が導入された1989年度から2019年度までの31年間に消費税として397兆円が吸い上げられた。同じ期間に法人税負担は298兆円、個人税負担は275兆円も減額された。消費税が財政再建や社会保障拡充に充当されたというのは真っ赤なウソ。消費税収の全額が大法人と富裕層個人の税負担減額に充当された。それ以上に大法人と富裕層個人の税負担が軽減されてきたのだ。

(つづく)


<プロフィール>
植草 一秀
(うえくさ・かずひで)
1960年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒。大蔵事務官、京都大学助教授、米スタンフォード大学フーバー研究所客員フェロー、野村総合研究所主席エコノミスト、早稲田大学大学院教授などを経て、現在、スリーネーションズリサーチ(株)=TRI代表取締役。金融市場の最前線でエコノミストとして活躍後、金融論・経済政策論および政治経済学の研究に移行。現在は会員制のTRIレポート『金利・為替・株価特報』を発行し、内外政治経済金融市場分析を提示。予測精度の高さで高い評価を得ている。また、政治ブログおよびメルマガ「植草一秀の『知られざる真実』」で多数の読者を獲得している。

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