2024年12月23日( 月 )

中国ネット大手テンセント、人員を大幅削減(後)

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リストラでコスト削減

ネットワーク イメージ    テンセントは18年9月に、「930変革」と称して「IT消費を根付かせ、IT産業を取り込む」方針を掲げた。業務を「C側」(消費側)から、C(消費者)とB(企業)を対象とするかたちに変え、IT産業向けのクラウド・スマート産業事業群(CSIG)を発足させたのである。

 CSIGは、ここ2年間の業績報告を見ると好調である。TOB業務を合む「フィンテック、企業サービス」は18~20年、テンセント全体の売上成長率を上回る伸びを記録し、22年第1四半期は売上高全体の32%を占め、2期連続で最大の収入源となっている。またこの5年間で、テンセントの利益額は4倍に膨れ上がっている。

 孫さんは、CSIGのこうした業績も知らないし、会社の利益にも関心がないが、テンセントが好きなのだ。卒業の際、内定を得ていたバイトダンスとテンセントのどちらに行くか迷った。バイトダンスのほうが給料はよかったが、インターンをした際にリーダーの教えがよく、同僚も親切だったテンセントに決めた。同期入社の仲間同士で、3年間いろいろ身に着けてお金がたまったら転職しようなどとも話し合っていた。

 孫さんは1カ月後に会議室に呼び出され、リストラ対象に挙げられていることを知った。楊さんも、ここまで話が急だとは思わなかった。火曜日はいつも通り出勤し会議に臨み、水曜日に「明日は全員集合」との連絡を受けた。そのときにいやな予感はしたが、やはり会議室に呼ばれたメンバーが全員首になった。その割合は60%に達し、なかには学内募集で入社して勤務歴5、6年という人もいた。この場で、ある社員がリストラ回避のために「妊娠した」などと訴える場面もみられた。

 誰も今回のリストラ対象の人数がどれほどかは知らなかった。馮さんはSNSの退職者チャットグループに加わった。1つは300人余り、もう1つは100人余りである。そのなかで最近、「正社員にはしない」と伝えられたというインターンの声もあり、ライバルが多くて次の仕事が見つからないとの訴えや、「なぜか最近テンセントの履歴書がずいぶん届いている」との声もあった。

 テンセントは2021年度の「持続可能な社会的価値報告」において、「社員の離職率は2020年が12%、2021年が12%で、IT業界の平均を下回っている」と示していた。しかし6つのBGにコストダウンと効率アップが挙げられた今年、リストラされた元社員が「中国実業家」に対し、今回のリストラにより社員数は「930変革」前を少し上回る7万人程度で落ち着くだろう、と述べた。つまり、10万人の社員のうち30%が1年以内に「卒業」する。楊さんは、2022年4月末の時点では社員のWechatログイン者数が表示されていたが、今は人数の変化が表示されなくなくなったという。

残った人にもつらさが

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 孫さんは数日前に同僚と食事をした際、「今は前と後ろと合わせて20人ちょっとだけ、あとリーダーが4人」といった冗談話を耳にした。「部署の人数が3分の2減り、オフィスはがらがら。残った人も辛いものがある。この半年で仕事が元に戻るかも分からず、自分が首になる恐れもある」といった悩みを誰もが抱えているように見えた。

 IT業界において、大手の相次ぐリストラで社員登用への競争が激化しているのは事実である。馮さんの話では、以前の採用は3次面接が技術関連で、これに通ればほぼ内定だったが、今はその後さらに給与について聞かれるという。「希望額が高い人はもうそれでおしまい。代わりはいくらでもいるので、コスパのよさそうな人を選んでいる」というのである。

 解雇通知を受けてから2カ月が過ぎた馮さんは今、上海に移住しよううかと考えている。気に入った仕事が見つからない孫さんも、深圳を離れたがっている。「夢はなにしろ辞めること。早く稼いで辞めたい」という。馮さんは地価が㎡あたり2万元以下である実家に帰りたがり、孫さんも深圳には居場所がないと考えている。
 深圳の21~22年の就業者数は1,249万人であり、このなかには、価値を見出して将来を託すべくテンセントにやってきたが、このような事態になり、居場所や今後の計画を見つめ直している若者も多いだろう。

 夜10時、深圳の南山にあるテンセントのオフィスビルには灯りがついている。ラッシュ時には信号待ちで右折に20分ほどかかるので、馮さんはよく会社から1kmほど歩いた後にタクシーを拾う。テンセントの株価が5年前の水準に逆戻りしたこの日、馮さんに与えられた2カ月間の猶予期間も終わった。もう1km歩くこともない。すべてが振り出しに戻ってしまった。

(了)


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