2024年12月22日( 日 )

企業の途上国への進出を支援、開発課題解決と海外販路拡大を促進

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(独)国際協力機構(JICA)

 開発援助を通して途上国の経済社会の発展を促進する(独)国際協力機構(JICA)。近年は従来の政府開発援助(ODA)のみならず、民間企業のビジネスを通じた現地の開発課題解決も推し進めている。途上国の課題解決に貢献し得る製品・技術を有する企業の海外市場進出支援を通して、途上国と企業の双方にメリットをもたらそうという支援スキームだ。JICA九州センターの担当者は、多くの企業がそうした製品・技術を有しており、海外販路開拓のためにも、JICAのスキームを検討・活用してほしいと語る。

海外で手厚いサポート

JICA九州センター
JICA九州センター

 JICAの実施する「中小企業・SDGsビジネス支援事業」(以下、「支援事業」)では、企業は海外現地での調査またはビジネス化にかかる経費(数百万円以上)に対して支援を受けることができる。新型コロナウイルス感染症のため、採択されたものの、動けずにいた案件が少なくなかったが、世界的にコロナ感染が落ち着きを見せるなか、企業は海外調査・事業の実施に向けて動き出しているという。

 この「支援事業」には、基礎情報収集とニーズとの適合性検証などを行う「ニーズ確認調査」、現地パートナーの確保、提供体制の構築などを行う「ビジネス化実証事業」などがある(2022年度から前述のものに制度変更)。

 採択の審査基準は、第1に途上国の課題にマッチしているかどうか、第2に今後のビジネス化が見込めるかどうかだ。また、日本、少なくても海外で販売・供給実績がある製品・技術であることが望ましいようだ。JICAは途上国の課題解決に貢献し得る製品・技術の例として、農業、保健・医療、教育、防災・災害対策などの分野を挙げており、採択例を見ると建設機械、水処理試験機など幅広い。企業は提供する製品・技術および進出先などを検討するに際し、JICAがまとめた国・対象分野、製品・技術で検索できる情報シートを参考にして絞り込んでいく。JICAは世界約100カ国に事務所を構えており、現地の事情に詳しい職員が、企業の事業案が現地のニーズに合うかなど相談に乗っている。

ニーズ確認調査
ニーズ確認調査

 案件採択後のJICAの現地事務所による支援としては、行政機関などへのアポイントのほか、通訳・翻訳、日本および現地でのコンサルティング、交通費、宿泊費、現地の移動費といった費用の負担などだ。JICA九州センター経済連携課の馬道彩主事は「JICAは途上国で実績を重ね、信頼を得ており、行政機関へのアポイントが取りやすく、ビジネス化につながりやすい」と語る。

 現地事務所の協力はその国ごとに違うが、パラグアイでの調査で「支援事業」に採択されている製剤開発・製造の(株)九州メディカル(北九州市小倉北区)によると、普通の地方の一企業が直接現地に行っても、企業、とくに行政機関の担当者とはなかなか会えないだろうが、JICAを通すことで、官庁の局長クラスとも面談ができ、現地企業へのアポイントもほとんど断られることがなく、スムーズという。

多くの企業に可能性

JICA    全国の中小企業への支援件数は延べ1,065件。内訳は基礎調査205件、案件化調査562件、普及実証ビジネス化事業298件。そのうち九州では、基礎調査12件、案件化調査47件、普及・実証・ビジネス化事業29件(22年6月時点、12年度開始の前身制度「中小企業海外展開支援事業(外務省委託含む)」からの通算件数)。

 九州の事例では、ほかにIT企業の(株)教育情報サービス(宮崎市)などが挙げられる。教育情報サービスは途上国でも快適に使用できるeラーニングシステムを導入、普及させている。バングラデシュでスタートし、ケニアでも展開している。その後、宮崎におけるIT人材不足、バングラデシュの雇用不足という課題解決のため、同国のIT人材を宮崎に呼び込む仕組みを大学などの関係機関と連携して構築。JICA九州の馬道主事によると、この「宮崎バングラモデル」は途上国のみならず、国内地方にも貢献するものとして、JICAの優良事業の1つに位置付けられているという。

 企業が海外に限らず新事業を行うに際し、重視する点の1つがスピード感。従来の「支援事業」の制度では、企業とJICAが直接委託契約を結んでおり、企業は経費の請求などの手続きを手間に感じていたが、今年度の採択案件から、日本の開発コンサルティング企業を間に入れ、「企業の手続きを支援することで、ビジネス化と課題解決のスピードアップを図る」(馬道氏)という。JICAも企業との連携の経験値を積み、制度設計について試行錯誤している。

 日本では市場が今後ますます縮小していく。馬道氏は、「日本の多くの企業は、経営者が思っている以上に、海外の開発課題の解決につながる製品・技術をもっており、多くの海外事業はSDGsにつながる可能性がある。企業と何げなく面談をするなかで、企業のもつ製品・技術がある国の課題解決に生かせるという認識に達し、その後、申請・採択に至ったケースもある。ぜひ海外進出を検討し、気楽に相談してほしい」と語る。

【茅野 雅弘】


<支援に関する問い合わせ先>
JICA九州センター 企業連携課
所在地:北九州市八幡東区平野2-2-1
TEL:093-671-6311
E-mail:kictps1@jica.go.jp

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