2024年12月21日( 土 )

ウクライナ戦争を左右する最新テクノロジーとマスク氏の思惑(後)

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国際未来科学研究所
代表 浜田 和幸

戦争ほど儲かるビジネスはない

イーロン・マスク氏
イーロン・マスク氏

 一方、ウクライナを支援しロシアを押さえ込もうとするのがバイデン大統領です。サイクリング中に転倒したり、演説後に「マスクが見当たらない」と大騒ぎしたりなど、ボケたふりをしながらアメリカの対外政策の軌道修正を図っているようです。先に来日した際にも、「台湾有事」の際の対応を聞かれて、当然の如く、「アメリカは台湾を守る」ときっぱりと「軍事介入」発言をしました。

 国内では「経済政策の失敗で、アメリカ史上最悪のインフレをもたらしている」と批判が高まっているため、その原因をロシアや中国に肩代わりさせ、強いリーダーぶりを演出しようとしているに違いありません。ホワイトハウスはすぐに軌道修正を試み、「アメリカの台湾政策に変化はない」と、従来の「1つの中国」との認識を強調したものです。しかし、これで3度目となるバイデン大統領の「台湾とともに戦う」という発言については、単なるボケによるものではなく、国務省や国防総省とも十分に練られた対中抑止の発言と思われます。

 ウクライナ戦争の成り行きを注視している中国は、台湾への武力侵攻を実行した場合、ロシアに対するような経済制裁を欧米や日本から課せられることをいかに回避するかを見極めようとしています。現時点での中国の見方は「ウクライナと違って台湾は中国の一部であり、たとえ台湾を侵攻しても国内問題であると突っぱねれば、ロシアが受けているような経済制裁は回避できる」というもの。

 さらには、欧米諸国や日本は中国市場に大きく依存しており、対中経済制裁となれば、アメリカや日本の受ける損失のほうが大きくなるように仕向ければ、欧米も日本も二の足を踏むだろうと分析しています。

 「戦争ほど儲かるビジネスはない」という格言は今も生きています。ウクライナ戦争も、そのことを証明する好例といえるでしょう。ロシアは欧米諸国からの経済制裁を受けていますが、原油や天然ガスという虎の子のお宝があるため、経済制裁の影響はあまり出ていません。それどころか、ロシアの貿易黒字は2,500億ドルに達し、昨年の1,200億ドルの倍にまで膨れ上がっているのです。

 アメリカは、経済制裁を強化すればロシアはエネルギーを輸出できなくなり、貿易赤字が膨らみ、「ウクライナ戦争を継続できなくなる」と踏んでいました。残念ながら、そうはなっていません。

スターリンク イメージ    実は、ロシアのエネルギーに依存しているヨーロッパ諸国だけではなく、中国やインドなどがロシア産の原油や天然ガスの輸入量を急増させているのです。アメリカは産油国であるため対ロ制裁の影響はありませんが、ヨーロッパの多くの国はそうはいきません。結局、密かにロシアからの輸入を継続しています。

 アメリカですら、インドがロシアから輸入して精製した石油をインド産として買っている有り様です。要は、アメリカとロシアの代理戦争の行方はまだまだ先が見通せないといえるでしょう。日本を含め、欧米の軍需産業やエネルギー産業はいまや空前の利益を計上しています。これではウクライナ戦争の終結はまだまだ先の話にならざるを得ません。

(了)

浜田 和幸(はまだ・かずゆき)
 国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鐵、米戦略国際問題研究所、米議会調査局などを経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選をはたした。11年6月、自民党を離党し無所属で総務大臣政務官に就任し、震災復興に尽力。外務大臣政務官、東日本大震災復興対策本部員も務めた。19年10月に出版された『未来の大国:2030年、世界地図が塗り替わる』(祥伝社新書)は2100年までの未来年表も組み込まれており、大きな話題となっている。近著に『イーロン・マスク 次の標的「IoBビジネス」とは何か』(祥伝社新書)。

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