2024年12月22日( 日 )

ウクライナ侵攻から半年 経済制裁に内在する2つの作用

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国際政治学者 和田 大樹

地球 イメージ    ロシアがウクライナへ侵攻してから、先月24日で半年を迎えた。それにより、ロシアと欧米の経済的亀裂は決定的なものとなった。欧米や日本などはロシアに対し原油や天然ガスなどの輸入停止、ロシア高官の入国禁止など制裁措置を次々に拡大し、ロシアに屈しない姿勢を貫いている。ロシアもそれへの対抗措置として、ロシア国営ガス会社ガスプロムがロシア通貨ルーブルでの支払いに応じないとして、ポーランドやブルガリア、デンマークなどへのガス供給を停止した。また、プーチン大統領は6月末、日本商社が多く出資する石油天然ガスの開発プロジェクトサハリン2について、事業主体を新たにロシア政府が設立するロシア企業に変更し、その資産を新会社に無償で譲渡することを命じる大統領令に署名した。このような状況から生じる経済的混乱は今もまだ続き、その長期化は避けられない模様だ。しかし、ウクライナ情勢を経済的視点から眺めると、筆者には1つのポイントが見えてくる。それは、経済制裁に内在する2つの作用だ。

国家による懲罰的制裁と企業による自主的制裁

 1つ目は、国家による懲罰的制裁だ。これは文字通り、ある国家が対立する国家に対してペナルティーとして実施する輸出制限、輸入停止、関税引き上げなどの経済制裁措置である。上述の通り、侵攻したロシアへの欧米や日本による経済制裁がこれに当たる。

 もう1つは企業による自主的制裁だ。これは分かりやすくいえば、政府の制裁発動によって対立国でビジネスを継続しにくくなった企業が、撤退や規模縮小、操業停止などの規制を自主的に行うことだ。これは企業にとっては自主的“規制”とも呼べるが、経済的被害を受ける対立国にとっては外資企業による自主的“制裁”と映る。

 対立国にとっては、国家による懲罰的制裁より企業による自主的制裁で被る不利益のほうが大きい。たとえばウクライナ侵攻後、マクドナルドやスターバックスなど世界的な欧米企業の完全撤退が相次いだ。これらの企業は人道的見地だけでなく、レプテーションリスク(企業イメージの低下)をも配慮し、完全撤退という重大な決断を下したと考えられる。だが、撤退されたロシアにとっては、現地従業員の雇用など新たな社会問題を生み出すことになったのである。

 岸田政権もロシアへいくつかの経済制裁を決定したが、それによってロシアに進出する日本企業の間では依然として撤退や操業停止、規模縮小などに関する議論が続いており、ロシア経済にとっては後者の方が広域的に影響する問題といえる。国家による懲罰的制裁による影響は、企業による自主的制裁と比較すれば、その影響が限定的な場合が多いといえる。

 いずれにせよ、国家による懲罰的制裁によって企業による自主的制裁が誘発されるという現実を考えれば、経済制裁には2つの作用があることは明らかだ。国家による経済制裁発動には単にそれによる効果だけでなく、より多くの企業に経営判断を促し、制裁対象国の経済により大きな不利益を与えるという効果も有しているのである。


<プロフィール>
和田 大樹
(わだ・だいじゅ)
清和大学講師、岐阜女子大学特別研究員のほか、都内コンサルティング会社でアドバイザーを務める。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、企業の安全保障、地政学リスクなど。共著に『2021年パワーポリティクスの時代―日本の外交・安全保障をどう動かすか』、『2020年生き残りの戦略―世界はこう動く』、『技術が変える戦争と平和』、『テロ、誘拐、脅迫 海外リスクの実態と対策』など。所属学会に国際安全保障学会、日本防衛学会など。
▼詳しい研究プロフィールはこちら
和田 大樹 (Daiju Wada) - マイポータル - researchmap

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