2024年11月22日( 金 )

謙虚と友愛と誇り高さと──池田友行氏の最新写真集に寄せて(後)

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ライター 黒川 晶

「この自然は5年後、10年後に消えてしまいますよ、それでいいのでしょうか、と人々に問いかけたいという思いがありました。出版記念も母校の大学の施設で行いました。ワンダーフォーゲル部の先輩、同期、後輩をはじめ、勤め先や趣味の仲間、そして広島と長崎から親友も駆けつけてくれました。弓道仲間で九州交響楽団の首席コントラバス演奏者によるピアノとの共演を列席者に楽しんでもらいました。祝賀会は盛会でした。」(池田氏)。

 『脊振讃歌』の出版後、脊振への恩返しをしなければと思い立つ。脊振山系を管轄する早良区役所に協力を仰ぎ、登山道整備に乗り出した。脊振山〜三瀬峠間(早良区エリア)ルートに道標を設置し直す、脊振山系道標設置プロジェクトを立ち上げたのである。早良区職員や母校ワンゲル部の学生・OB、登山愛好家たちの活躍により、5年間で合計約70本の道標と登山地図を立てることができた。折しも、糸島市のボランティア団体「伊都遊歩道クラブ」も同じ活動を行っていた。こうして、早良区エリアと糸島市エリアを含め、脊振山から十坊山まで270本もの道標設置が実現したのである。

 2012年には、持続的な安全登山啓発活動を通じて脊振の環境が保たれるよう「脊振の自然を愛する会」を設立。以来、行政や各ボランティア団体とも連携しながら、さまざまな活動を主導している。毎年の山開きやクリーンアップ登山、自然観察会、ブナ林調査会、渓谷整備事業、「脊振サミット」開催等々。その功績は高く評価され、2018年6月に福岡市「環境行動賞・優秀賞」を受賞。2019年度は環境省「自然歩道関係功労者賞」受賞・日本山岳遺産基金「日本山岳遺産」認定のダブル表彰となった。

 後者の助成金を活用し、かつドコモCS九州の協力も得て、2020年には脊振山〜三瀬峠のルート上に、既存の道標を利用した約30本ものレスキューポイントを取り付けた。標識上のQRコードをスマートフォンで読み取らせれば、たちどころに現在地が確認できるという優れもの。道迷いによる遭難防止に加え、急病・負傷などの緊急時には消防隊への正確な通報に、ひいては迅速な救助につなげることができる。「この情報は早良区役所、早良消防署、福岡市消防航空隊と連携しています。情報は共有しなければならない。私のモットーです」(池田氏)。筑紫野消防署は、このレスキューポイントを参考にして宝満山の登山口に安全登山警鐘の看板を設置した。近年、山ブームで初心者の登山者が増え事故が絶えないからである。

「今度は登山口のトイレ整備を実現したいと思っています」。80歳を目前に控えているとは思えぬ若々しい声と笑顔で、池田氏は楽しそうに、次なる計画を語ってくれた。

池田 友行 氏
池田 友行 氏

現在、そして未来へのメッセージ

 「やろうと思ったことは、すぐに実行に移してきました。それも、志を同じくする仲間たちと楽しんでやる。とはいえ、何に取り組むにしても、楽しむためには努力が必要です。世代を超えて交友の幅と視野を広げ、彼らとともに行動できるよう体を鍛えて。近年は、50過ぎに始めたスキー(1級の資格ももっているんですよ(笑))で子どもたちの指導をやるようにもなったのですが、こうしてお役だていただけることを、本当にありがたく思っています」(池田氏)

 出会うあらゆる「生」に敬意をもって向き合い、生かし生かされつつ歩む。その積み重ねが未来をつくる──池田氏が筆者に寄せてくれたメッセージは、そうした謙虚さと誇りに満ち溢れ、時代の荒波に晒され自分を見失いがちな我々に、力強い指針を与えてくれるものだった。

 花にレンズを向ける時
 私は無になれる
 花との会話が始まる
 花は語りかける
 待っていたよ 元気だったかい
 私は自然のなかに1人佇む
 生きていると感じる瞬間だ
 脊振の恵に私は感謝し
 自然と一体になる!
 カメラよ 良い写真を撮らせてくれ
 シャッターを押す感動の一瞬
 この感動を味わう為に山に来る
 多くの出会い 多くの失敗
 また花に会いたくて山に来る
 私は礼をいう
 脊振よ ありがとう
 十年後、百年後、私の記録は
 きっと役に立つ

 2022年9月2日 池田友行

(了)

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