2024年12月23日( 月 )

【安倍元首相亡き後(1)】のびのびとした検察、五輪疑獄摘発

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水は低いところへ流れる

検察庁 イメージ    日本における検察という権力機関は、悪を退治する最終的な防波堤である。この機能が麻痺すれば、国民を守ることができない(多少はその時々の政治権力に迎合することはあるが──)。第二期安倍政権(2012年)から現在まで、検察庁という組織は安倍・菅コンビに巧妙に押さえつけられてきた。検察組織へ睨みがきく官僚を内閣府に引き抜き、彼を使って検察情報の収集と命令の徹底を図ってきた。

 さらなる圧力強化のために、おべっか使いの名手・黒川弘務氏を検察庁のトップにあたる検事総長に就任させる人事を企んだ。ところが検察庁組織内には、「政権のイヌコロになり下がってしまってたまるか!」という良識が残っていた。周知の通り、黒川氏は賭博罪で略式起訴となり、退任に追い込まれた。この攻防戦あたりから、政権と検察の力関係が逆転し始めた。水は低いところへ流れる。世の中の道理が通り始めたのである。

東京オリンピック利権を賄賂として摘発

 「国民のボランティアで、東京オリンピックを成功させよう」というキャンペーンが展開されたのは、記憶にも新しい。お人好しの国民は「人生の一コマとして、オリンピック成功のために貢献しよう」と参加申し込みが続出したのである。ところが現実は、気温40度の炎天下で、無報酬で働かされることを知り、誰もが愕然とした。本間龍氏は『ブラックボランティア』という著書のなかで、「肥えるオリンピック貴族、タダ働きの学生たち」という実態を赤裸々に伝えた。この主張が広がることで、「オリンピックの本性はおかしい」という認識が拡散した。お人好しの日本人が猜疑心を持ち始めたのは結構なこと。日本人の精神の、緑化再生だと評価してよい。日本人の皆様!お人よしはけっこうだが、権力者にすべてを託すのは止めようや。

 ところで、驚いた人も多かったのではないだろうか。権力者・安倍晋三氏が暗殺されて僅か2カ月足らずで、検察がこんなに機動力を発揮して五輪汚職の摘発が進行するとは、予想だにしなかった。もちろん、検察組織がこの2年間、ターゲットを絞って調べ上げた蓄積があってこそ成果結実をなすことができたのだろう。安倍氏は権力を盾に検察を制圧したかのように自信満々だっただろうが、首相を辞任して2年も経過すれば、綻びは必ずでてくる。水が浸透すれば安倍防波堤は自然に崩壊する。

 高橋容疑者逮捕で、事件の概要は鮮明になった。驚き呆れる。スポンサー獲得の裏側は、まさしく民間広告の開拓セールスそのものである。「御社にとって協賛スポンサー料15億円が定価です。7.5億円、半分にいたしましょう。その代わり2.5億円はコンサル料としていただきます」と、高橋容疑者は平然とビジネスを締めくくった。彼にしてみれば半世紀慣れ親しんできたビジネスルールを適用したに過ぎない。致命的だったのは、自分が「みなし公務員」であることを忘却していたことだ。彼はこれで犯罪者に転落したのである。

 第二の驚き。スポンサー料金の半額値引きを、高橋容疑者1人の胸算用に任せるという権利を委ねた東京オリンピック組織委員会の杜撰さ、丸投げの運営。これでは高橋容疑者の不正をチェックできないことは一目瞭然である。

 さらにもう一点は、故安倍元首相の先輩格にあたり、清和会会長職も経験した森喜朗氏だ。森氏はその縁で東京オリンピック組織委員会会長に就任できたのである(途中、辞任)。結果、安倍氏が先輩へ恩義を果たそうとした行為は、おそらく森氏が被告の立場へと転落することで、森氏の晩節を汚すことへとつながった。これで札幌冬季オリンピック誘致の可能性はゼロとなったのではないか。

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