2024年12月23日( 月 )

【BIS論壇No.390】インド太平洋経済枠組み(IPEF)

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 NetIB-Newsでは、日本ビジネスインテリジェンス協会理事長・中川十郎氏の「BIS論壇」を掲載している。
 今回は9月15日の記事を紹介する。

QUAD イメージ 5月に日本を訪問したバイデン米国大統領は23日に岸田首相との会談、24日のQUAD(米国・豪州・インド・日本)の首脳会談で、IPEF(Indo Pacific Economic Framework=インド太平洋経済枠組み)なる米国の新たなインド太平洋戦略を提案した。これはトランプ大統領時代に米国が撤退したCPTPP(包括的斬進的環太平洋連携)に代わり21世紀に発展するインドおよびアジア太平洋諸国を取り込み、中国の広域経済圏構想Belt & Road Initiative(一帯一路戦略)への対抗軸にしようとの、バイデン政権が主導する新たな太平洋通商貿易戦略だ。

 これを受けて、9月8日ロスアンゼルスにおいて、アジア太平洋地域で米国が中国に対抗すべく、米国主導のインド太平洋大経済圏IPEFの正式交渉となる、初の閣僚級会合が開催された。日本を含む全14カ国が参加し、経済面でも近年とみに存在感を強める中国への対抗を念頭に、米国が経済安全保障の協力関係を強化する狙いがあったものとみられる。

 IPEFには、日・米・豪・印のほか、韓国・ニュージーランド、および21世紀に入って急速に発展しつつある東南アジア諸国連合(ASEAN)からもインドネシアなど7カ国、さらに南太平洋のFujiを含む14カ国が参加した。

 IPEFは ①デジタル経済を含む公平な貿易の推進 ⓶半導体などのサプライチェーン(供給網)の強化 ③脱炭素に役立つインフラ整備 ④税逃れや汚職防止、以上の4項目を柱としている。

 とはいえ、地域的包括的経済連携(RCEP)から脱退したインドは、IPEFでも貿易分野での交渉には不参加を表明。2025年には中国を抜いて世界最大の人口国となり、ITを中心とする情報分野でも躍進しつつあるこの国は、全方位外交を目指すのが伝統となっている。
そういうわけで、9月15日から16日にかけてウズベキスタンで開催される中国・ロシア主導の上海協力機構(SCO)には、インド太平洋の有力国としてインドがパキスタンとともに参加する。インドはウクライナ侵攻に関する国連のロシア非難決議にも参加せず、伝統的な非同盟=中立の立場を保持している。21世紀前半は中国の時代、後半はインドの時代と見ることができよう。インドはポスト・チャイナの有力国として急速に浮上してきたのである。このように、脚光を浴びつつあるインドの動向に、日本としてはさらなる注視が必要だ。

 アジア経済に詳しい朝日新聞の吉岡桂子編集委員によれば、①米国が中国への対抗のために創設したIPEFの成否はASEANの支持が鍵をにぎる ⓶中国の一帯一路はピークアウトしており、インフラ整備などで共通ルールに取り組む好機となっている ③アジアの経済連携は重層性が強みである、としている。吉岡氏は、多くの枠組みに参加する日本は、それらの媒介役を目指すべきだという卓見を披歴しているのである(朝日8月29日)。筆者もこれに同感だ。

 15カ国参加のRCEPは経済規模32兆ドル、TPPは11カ国参加で12兆ドル。10カ国参加のASEANは3.4兆ドルだ。これに比し、IPEFは14カ国ながら経済規模は39兆ドルと最大である。21世紀に発展するアジア太平洋においては、米中の二大国が対立するのでなく、聖徳太子の『和を以て尊しとなす』の精神で「競争と協力」を目指すべきだ。


<プロフィール>
中川 十郎(なかがわ・ じゅうろう)

 鹿児島ラサール高等学校卒。東京外国語大学イタリア学科・国際関係専修課程卒業後、ニチメン(現:双日)入社。海外駐在20年。業務本部米州部長補佐、米国ニチメン・ニューヨーク開発担当副社長、愛知学院大学商学部教授、東京経済大学経営学部教授、同大学院教授、国際貿易、ビジネスコミュニケーション論、グローバルマーケティング研究。2006年4月より日本大学国際関係学部講師(国際マーケティング論、国際経営論入門、経営学原論)、2007年4月より日本大学大学院グローバルビジネス研究科講師(競争と情報、テクノロジーインテリジェンス)

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