2024年12月25日( 水 )

東京五輪汚職の核心は、電通と政界との「談合」(後)

記事を保存する

保存した記事はマイページからいつでも閲覧いただけます。

印刷
お問い合わせ
法人情報へ

 「すべての道はローマに通ず」。ローマ帝国の盛時に、世界各地からの道がローマに通じていたことから、多くのものが中心に向かって集中しているたとえ。スポーツビジネスの電通王国にも、このことわざは通用する。つまり、すべての利権の道は電通に通ず。東京五輪汚職は電通に向かって集中している。政商=電通の成れの果てである。

週刊誌報道に恨み骨髄

 森元会長が講談社を「嫌いだ」と公言して憚らないのは、恨み骨髄に達しているからだ。

 「森氏が講談社を認めない」理由は、講談社が発行する週刊誌『週刊現代』や写真週刊誌『FRIDAY』の報道だとしている。

 『週刊文春』9月15日号では、森氏が否定する「早大生時代の買春検挙報道」や「元石川県議の長男・祐喜氏(故人)に関する報道」などを具体例に挙げ、森氏が当時講談社社長だった野間佐和子氏(故人)の元を訪れ、”談判が決裂した模様”についての証言を伝えている。

 佐和子氏は省一氏の一人娘で、現在の省伸社長の母親だ。佐和子氏は、森氏の抗議をはねつけた。森氏はこれに恨みを抱いた。

 組織委会長は、”みなし公務員”であり、公平性と公益性が認められていることはいうまでもない。個人的恨みから、講談社を五輪スポンサーから排除したのは、職権乱用のそしりは免れない。

産経報道から森氏の疑惑

 東京五輪汚職で大会組織委員会の会長だった森氏の名前が浮上したのは9月1日のことである。贈賄容疑で逮捕されたAOKIホールディングス前会長の青木拡憲容疑者(83)が、森氏に「現金200万円を手渡した」と特捜部の調べに供述したと、産経新聞が報じた。

 〈青木容疑者は調べに対し、2回に分けて森氏に現金を直接手渡したと供述。趣旨については「がん治療していた森氏へのお見舞いだった」としている〉

 森元首相は組織委が発足した14年1月、会長に就任。女性蔑視と受け取れる発言をした責任を取り21年2月に辞任した。

 さらに『朝日新聞』は9月9日の朝刊1面で、「森元首相を参考人聴取」と報じた。

 〈森氏の聴取は8月中旬から9月初めに、都内のホテルで3回ほど行われた。特捜部は、組織委の意志決定プロセス、会長や理事の職務権限、高橋元理事が理事になった経緯などを確認したという〉

 五輪汚職の捜査がいよいよ大物政治家に向かっていると思われたが、朝日の記事には「200万円」の話は一切で出てこない。

 森氏はあくまで高橋容疑者とスポンサー企業との贈収賄事件の参考人という位置づけで、容疑者ではない。200万円の授受について聴くと被疑者扱いになるので、特捜部は聴いていないという。そのため、特捜部はスポンサー企業との贈収賄にメスを入れても、大物政治家には手を付けないのではないかとの憶測を呼んだ。

スポーツビジネスで稼ぐ電通商法

電通本社ビル イメージ    電通商法は、スポーツビジネスで荒稼ぎするというものだ。汚職事件の舞台となった東京五輪のほか、サッカー・ワールドカップ(W杯)や陸上の世界選手権など、電通は世界が熱狂する大会に携わってきた。

 東京五輪では、国内スポンサー集めを担う専任代理店の権利を勝ち取った。電通はスポンサー集めに社員を総動員した。すべての利権の道は電通に通じているのである。

 東京五輪汚職は別の大会スポンサーにも波及した。特捜部は9月7日、駐車場運営大手パーク24(株)本社を家宅捜索した。同社は18年8月、駐車場サービ―ス分野で下位スポンサーのオフィシャルサポーター契約を組織委と締結した。

 パーク24は、JOC(日本オリンピック委員会)の竹田恆和元会長(74)を社外取締役に迎えている。

 2020年東京五輪・パラリンピック招致をめぐっては、招致委がシンガポールのコンサルタント会社に支払った2億3,000万円の一部がIOC(国際オリンピック委員会)の関係者に渡ったとする汚職疑惑が浮上。竹田氏やJOCは「招致活動の活動ための正当な支払いだった」と主張したが、竹田氏はフランス司法当局の捜査対象となった。竹田氏は19年6月、JOC会長とIOC委員の辞任に追い込まれた。

 竹田氏を01年にJOC会長に付けたのは、電通のスポーツ利権を牛耳っていた高橋容疑者だった。高橋氏と竹田氏は、慶應大学の先輩・後輩の間柄。旧皇族出の据わりの良さを買われた竹田氏は電通丸抱えのJOC会長として、電通のスポーツ利権のお先棒を担いだのだ。

 特捜部が五輪招致の裏金問題に切り込むかが、今後の焦点だ。

安倍晋三からの直電 「絶対に捕まらないようする」

 東京五輪を仕切る電通は、今や「国家なり」である。政商・電通と政界の談合が五輪汚職の核心といえる。『文藝春秋』10月号は、ジャーナリスト・西崎伸彦氏の「高橋治之・治則『バブル兄弟』の虚栄」を掲載した。

 東京都が2016年五輪の招致に敗れ、再び次の2020年五輪招致に向けて正式に立候補を表明した約1年3カ月後の12年12月、それまで下野していた自民党が再び政権に返り咲き、第2次安倍晋三内閣がスタートした。

 安倍政権が肝煎りで推進した五輪誘致のキーマンとなる男は、当時の状況について、知人にこう話しているという。

 〈「最初は五輪招致に関わるつもりはなかった。安倍さんから直接電話を貰って、『中心になってやって欲しい』とお願いされたが、『過去に五輪の招致に関わってきた人は、みんな逮捕されている。私は捕まりたくないと』と言って断った。

 だけど、安倍さんは『大丈夫です。絶対に高橋さんは捕まらないようにします。高橋さんを必ず守ります』と約束してくれた。その確約があったから招致に関わるようになったんだ」〉

 安倍政権肝煎りの五輪招致が実を結び、大会は無事終わった。

 しかし、約束の主、安倍元首相は7月8日、凶弾に倒れた。その1カ月後の8月17日、招致のキーマンだった高橋容疑者は受託収賄の疑いで司直の手に落ちたのである。

(了)

【森村 和男】

(前)

法人名

関連記事