2024年11月22日( 金 )

JR九州「36ぷらす3」の展望(後)

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運輸評論家 堀内 重人

 「36ぷらす3」は、JR九州のD&S(デザイン&ストーリー)列車の第12弾として、2020年10月16日にデビューした、JR九州が中心となって運行する特急列車である。D&Sトレインとしては、2017年3月登場の「かわせみ やませみ」以来3年半ぶりとなる。九州のエピソードをぎゅっと詰め込んで、毎日違うおもてなしにより、世界に「九州」をアピールしようとしている。車体色は、鉄道車両には珍しい黒色であり、メタリック塗装であるから、車体の光沢や艶があり、看板列車らしく鏡のような感じに仕上がっている。

乗車した感想

 筆者は、長崎新幹線の開業が迫った2022年9月12日に、長崎から博多まで「36ぷらす3」の5号車の座席を利用している。5号車に乗ったため、食事付きのコースではなく、乗車のみであり、みどりの窓口で乗車券・特急グリーン券を購入して乗車した。

 座席は、800系新幹線の座席の座り心地を改良の上、車内は1-2の横3列の座席配置となっている。この列車は、「特急」として運転されるが、通常の特急が博多~長崎間を2時間弱で運転されるところを3時間半も要するが、座っていても疲れることはなかった。

 だがシートピッチは、種車の787系電車の普通車と同様に1,000mmであり、かつグリーン車に備わるフットレストも無ければ、床には絨毯も敷かれておらず、フローリングの状態である。

 グリーン車のシートピッチは、1,160mmが主流であり、1,000mmのシートピッチは普通車の水準である。各座席にコンセントと読書灯、拡げて使えるひじ掛け内蔵のテーブルが備わる点が、せめての救いであった。

 グリーン車のなかには、「眺望」を売りにしている車両もあるが、「36ぷらす3」は、窓に組子を組み込んだ障子窓のため、半分しか開けることができず、眺望は期待できない。長崎本線は有明海に沿って走るため、車窓からの風景はすばらしい。「36ぷらす3」では、折角の眺望が台無しになってしまっている。1~3号車の乗客は、食事付きであるため、美しい景色を見ながら食事をする、ということは出来にくい列車である。

車窓からの風景
車窓からの風景

 また1号車と6号車は、靴を脱いで寛げるように、畳敷きになっているが、畳は維持費がかかる。酒や水などをこぼされたりすれば、畳が傷んでしまうため、取り換えなければならない。近鉄が「しまかぜ」で和風個室を導入したが、畳ではなく絨毯を採用したのは、維持費を低減させるためである。絨毯であれば、洗うだけで良いから、維持費が安くなる。

 「36ぷらす3」についていえることだが、車内に木材を大量に使用しているため、改造コストがかさんだだけでなく、維持管理費も高くなる。木材は、不燃化や難燃化対策を実施しなければならず、製造コストがかさむだけでなく、ニス塗りのフローリングの床は、できたばかりのころは美しくてきれいだが、直ぐにニスが剥げて汚くなるから、メンテナンスとイタチごっこになってしまう。

 運転速度が遅いにも関わらず、特急料金プラス従来の在来線グリーン料金の2倍以上の価格を徴収するのは、これぐらい徴収しないと車両の維持管理費が賄えないだけでなく、客室乗務員が車掌を含め6名も乗務するため、人件費もかさむことが原因である。ちなみに、8両編成で運転される博多~長崎間の特急「かもめ」は、車掌が1名で乗務している。

 「36ぷらす3」の良い点としては、3号車にビュッフェが設けられ、九州の地酒や軽食・スイーツが提供され、クレジットカードによる決済が可能である点である。また、肥前浜で停車して地元の方々の歓迎があり、地元の名産品が販売されるなど、地域と一体で鉄道の活性化が模索されている点もよい。

 長崎新幹線開通後、長崎本線はJR九州が運営することになっているが、インフラは佐賀県・長崎県が出資した公的機関が所有するかたちで上下分離経営が実施される。肥前浜~長崎間は、特急電車や貨物列車がないことから、架線を外して、気動車で運行される。

気動車
気動車

今後の展望

 「36ぷらす3」は、原則として食事付きのコースで販売されており、5~6号車の座席は乗車のみを目的とした人向けに、みどりの窓口でも指定券などが購入できるようになっている。ただし、個室に関しては、6人用は空室が目立つなど、課題が残ることはたしかである。

 「36ぷらす3」は頻繁に後続の特急に抜かれたり、対向列車に道を譲ったりしながら走行しており、、「特急」とは名ばかり、「急行」でもよいぐらいである。また、この列車専用の異常に割高なグリーン料金の設定など、設備のレベルに比して割高で、サービス水準がともなっていない。

 9月は長崎新幹線開通前であるから、キャンペーン的に運転され、時刻表にもダイヤが掲載されている。平素は、なかなか乗車できない列車であることから、話題づくりとして乗車した人も多い。

 だが、割高な価格の割には、特別なサービスが実施される訳でもなく、1度乗車したらそれで終わりになる、一見さん相手の商売のような気がした。

 「36ぷらす3」と類似の列車として、JR四国の「伊予灘ものがたり」がある。この列車も食事付きのツアー形式の販売が主流であるが、食事無しで乗車のみの利用も可能である。この列車も、特急のグリーン車として営業しているが、異常に割高なグリーン料金は設定していないし、瀬戸内海などの眺望を満喫してもらうため、窓も既存のキハ185系気動車時代のままである。

 今回、「36ぷらす3」を利用して感じたことは、「ななつ星in九州」は、10月から1泊2日のコースであっても、従来の大人1人あたり40万円が、65万円に1.5倍以上も値上がりするため、「ななつ星in九州」ではあまりにも敷居が高い。

 そこで、少しでも割安な価格で、その気分を味わいたい人か、3号車のビュッフェで販売されるオリジナル商品の飲食などを目的にする人ぐらいしか、利用しないような列車になることを危惧する。

 JR九州の看板列車として人気が継続するには、非常に割高な「36ぷらす3」専用のグリーン料金を廃止して、従来の在来線特急のグリーン料金を適用させる必要性があるだろう。

(了)

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