2024年12月21日( 土 )

佐賀唐津風力発電事業撤退(2)市が進めるほかの計画事業

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 大和エネルギー(株)が佐賀県唐津市七山の糸島市との県境地域山中で進めていた風力発電事業から撤退したとの報道について、この事業計画をめぐっては、当初糸島市側の市民による反対運動が強く、事業者側がそれに配慮して糸島市側の土地を計画区域から除外していたという。その後、唐津市側でも住民の理解を得られず、近年多発する豪雨災害に対する保安林の重要性が認識されるなかで、佐賀県側から保安林の指定解除の同意も得られなかった。その結果として撤退の決断にいたったようだ。七山の事業はこのような結果となったが、唐津市ではほかにも風力発電計画が進行中である。

唐津市の風力発電計画

風力発電 イメージ    風力発電をはじめとする再生エネルギーの導入は国の政策である。日本は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにすることを目指しているが、温室効果ガスの8割以上がエネルギー分野によるものであり、その対応として再生可能エネルギーへの転換が目標に掲げられている。

 唐津市も2013年に「唐津市再生可能エネルギー総合計画」を策定して政策の柱にしており、風力発電事業を積極的に受け入れる立場にある。同市にはすでに東松浦半島を中心に31基の風車が設置されている。そしてさらなる風力発電所設置が下記のとおり計画されている(以下の年間発電量は、陸上風力発電の設備利用率を20%、洋上風力発電の設備利用率を30%として算出)。

(1)唐津市北波多ならびに相知と、伊万里市大川との市境界山中の陸上風力発電

 単機出力:4,200kWを最大13基、最大高:182m、合計最大出力:5万4,000kW、年間発電量は最大94.6GWhである。26年運転開始を見込んでいる。

 この風車はすでに唐津市内で建設されているものよりはるかに大きい。同市内に建設済みの風車の大きさは、ローター径:約70m、ハブ高:約65m、最大高:100m程度のものが多く、近年建設されたものは最大高:133m程度。中止となった七山の計画では、ローター径:約117m、ハブ高:約100m、最大高:159mであった。このように、ますます大きな風車が導入されていく傾向にあることが分かるが、これは技術向上と導入コストの低下によるものと考えられる。

(2)加部島陸上風力発電

 単機出力:4,000kW級を最大3基、最大高:175m、最大出力7,500kW未満、年間発電量は最大13.1GWh未満である。

(3)唐津市沖の洋上風力発電

 離島の神集島から馬渡島にかけての5島の北部洋上、東西25km程度の範囲である。確認した限り4社が事業計画案を出している。

(ア)    日本風力エネルギー(株)
 事業計画案では、単機出力1万~1万4,000kW 級の風車を29~40基、最大高は海水面から270m、合計最大出力:40万kW程度、年間発電量は最大1,051.2GWh。上記の陸上風車と比べるとさらに大きく、かつ大規模である。
(イ)    (株)レノバ
 単機出力9,500kW~1万5,000kW級を27~42基、最大40万kW程度、年間発電量は(ア)と同じ。
(ウ)    大阪ガス(株)と佐賀洋上風力発電(株)
 単機出力8,000~1万5,000kW級を最大75基、最大60万kW程度、年間発電量は最大1,576.8GWh。
(エ)    関西電力(株)
 本年6月に事業計画を発表。単機出力9,500~1万4,700kW級風力を最大63基、最大67万6,200kW、年間発電量は最大1,777GWh。

 これらの新しい計画を既存設備と比較してみる。すでに設置済の31基の合計出力は6万2,680kW、すべて陸上であるので、設備利用率20%とすると年間発電量は109.8GWhとなる。(1)の計画はこれと同規模、(2)は小さいが、(3)は10倍以上の規模の違いがあり、本格的な導入はいよいよこれからであることをうかがわせる。

 ここで国の再生可能エネルギーの導入目標を確認しよう。資源エネルギー庁によると、「2019年現在のところ、日本での導入実績は陸上風力が4.2GW、洋上風力はごくわずかだが(2019年度)、2030年の温室効果ガス46%削減(2013年度比)という目標に向けて、陸上風力で17.9GW(3万4,000GWh)、洋上風力で5.7GW(1万7,000GWh)という水準を目指す」とのこと。

 上記の(1)、(2)および(3)の(エ)が実現した場合、30年の発電量目標において唐津産が占める割合は、陸上風力ではわずか0.6%程度に過ぎないが、洋上風力では10%程度となる。洋上風力発電の風車が1カ所に50基以上並ぶ様を想像することもできないが、目標に達するためには、日本全体で少なくともその10倍以上の風車が必要ということになる。

世界の洋上風力発電と日本

 21年時点での各国の洋上風力発電の設置規模を最大出力(MW)で見ると、次の通りである。

 1位 中国:19,747 2位 イギリス:12,281 3位 ドイツ:7,701 4位 オランダ:3,010 5位 デンマーク:2,343 6位 ベルギー:2,263 7位 台湾:237・・・9位 韓国:104・・・11位、日本:85

 日本の30年の目標は5.7GWであり、実現すれば、現在のドイツよりやや小さい規模である。

 日本では洋上風力発電の普及がとくに出遅れているが、その理由は、洋上風力発電が盛んなヨーロッパと比べて日本は平均風速が低く、着床式風車を建設するのに適した遠浅な海底が海岸から比較的短い距離までしか続いていないため、大規模な風力発電ができる地域が限られてくることによるようだ。風という無限にありそうな動力源も、それを電力化する設備とコストを考えた場合、決して無限の資源ではないということだ(1位の中国の状況と比較したいところだが、資料を十分に確認できていない。限られた資料で見る限り、1基あたりの出力が6,000kW程度と見られる地域がざらにあり、コストパフォーマンスはあまりよくないのかもしれない)。

行政、事業者へ期待する事

 再生可能エネルギーの導入は地球温暖化に対する対策を動機としているが、七山の問題でも論点の1つとなったように、気候変動が原因といわれる豪雨災害等の激甚化によって、陸上風力発電は立地の確保における安全性リスクが増大しており、洋上風力発電が有力な選択肢である。

 唐津市沖の洋上風力発電計画に対しては、地元サーファーなどを中心に、景観、漁業、健康、波への影響などから計画再考を訴える署名活動が行われている。再生可能エネルギーの導入が国策として必要であるならば、洋上風力発電を限られた建設適地へ導入していかなければならないが、行政と事業者は、当事業の推進に当たって、地元住民の反対意見にも真摯に耳を傾け、安全性をはじめとしたさまざまな懸念事項の解決と、地元住民の同意の確立に十分に力を尽くすべきであろう。再生可能エネルギーの導入が、住民と事業者との対立の地平となるのではなく、環境・エネルギー問題解決に向けたさらなる協力の足がかりとなるように、一歩一歩着実に事業を進めていくことを望む。

【寺村 朋輝】

(1)

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